【転載】国立天文台・天文ニュース(612)
国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡とヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡 VLT(Very Large Telescope)との共同研究により、銀河と銀河との間に、いままで知られていない星形成領域が発見されました。
一般に銀河と銀河との間、銀河間空間と呼ばれる場所には、それほど目立った天体はないと考えられてきました。銀河が密集している銀河団の中でも、非常に希薄なガスが大部分で、銀河間空間には非常に希薄なガスが拡がっているほかには、銀河から飛び出した星が寂しくさまよっている程度だと考えられてきました。もしも銀河間空間に太陽のような星が存在すれば、それはやがて死を迎え、星の芯を残して外層を吹き飛ばし、惑星状星雲になるはずです。銀河間の惑星状星雲を調べることで、銀河間空間の星の性質や起源に迫ることができます。また、惑星状星雲ならば個々の恒星よりも明るいので、かなり遠方でも見つけられます。
こうして、すばる望遠鏡の主焦点カメラにより、おとめ座銀河団の銀河間空間にある惑星状星雲探しが始まりました。おとめ座銀河団はおとめ座の方向、約5000万光年の距離にあって、数百個もの銀河が密集する、私たちから最も近い銀河団です。その結果、いくつかの惑星状星雲の候補が見つかりました。ですが、これらの候補天体が惑星状星雲であると確認するには、その天体の光をより詳しく分析する分光観測をしなくてはなりません。そこで今度はヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡 VLTの微光天体分光装置によって、候補天体が調べられていきました。実際、いくつかは予想通りに惑星状星雲でしたが、驚いたことに重い星が生まれている星形成領域もあったのです。
一般に星が誕生する場所は、銀河本体の内部と考えられてきました。生まれたての若くて重い星は強い紫外線によって周囲のガスを暖めます。紫外線により水素が電離して、強い光を発する星雲、電離水素領域になります。電離水素領域は、すなわち重い星が生まれている星形成領域です。これは天の川銀河のような円盤銀河の渦状の腕に多く見られますが、発見された天体はNGC4388という銀河から、少なくとも約82000光年も離れている電離水素領域でした。この領域に含まれる星の総質量は、せいぜい太陽質量のわずか数百倍程度の小さなものですが、生まれたての星によって輝く電離水素領域が、このように銀河本体から遠く離れて存在するのが見つかったのははじめてです。
もともとNGC4388では、銀河本体から大きく離れた巨大な電離ガスが、すばる望遠鏡の観測で発見されています(2002年4月15日のすばる望遠鏡ニュースリリース)が、ガスを電離させる主なエネルギー源はNGC4388そのものの活動的な銀河中心核からの放射でした。今回の発見のように、独立に重い星が生まれ、ガスを光らせている電離水素領域の存在は予想もしなかったことです。さらに調べてみると、おとめ座銀河団の他の銀河M86とM84の近傍にも同じように孤立した電離水素領域が存在していました。
いずれにしろ、銀河団の銀河間空間には、孤立した星形成領域が一般的に存在していることを示した画期的な研究成果といえるでしょう。銀河団形成初期には、こういった銀河間空間の星形成は現在よりも活発で、それが銀河間空間に点在する星の起源になっているのかもしれませんが、その謎解きはこれからです。
注:この天文ニュースの詳細は、すばる望遠鏡およびヨーロッパ南天文台 (ESO)との共同リリースとして、それぞれのホームページで、図版を含めて公開されています。
2003年1月16日 国立天文台・広報普及室
訂正:「国立天文台・天文ニュース (611):串田麗樹さん、12個目の超新星を 発見」で、発見日が間違っておりました。正しくは1月12日(日本時間)と なります。 串田さんがこれまで独立に発見された超新星は以下の通りです。 SN 1991bg、SN 1994I、SN 1994ak、SN 1995D、SN 1996bu、SN 1997E、 SN 1999aa、SN 1999gi、SN 2002cr、SN 2002db 、SN 2002fk ですので、「国立天文台・天文ニュース (547):串田麗樹さん、超新星 を発見」の発見個数の記述はそのまま9個でした。 重ねてお詫びして訂正いたします。 IAUC 8048(2003 January 15)によると、この超新星の呼称はSN 2003Jに なり、岡山県の美星天文台の観測から、タイプII型の超新星であるとい うことが判りました。