【転載】国立天文台・天文ニュース(589)
アメリカ・バーミンガムで開催されたアメリカ天文学会惑星科学分科会で、カリフォルニア工科大学のブラウン(Michael Brown)とトラジロー(Chad Trujillo)が、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて、過去最大の太陽系外縁部の小天体の大きさを測定したという結果を発表しました。この小天体は、彼らが今年夏にパロマー山天文台のシュミット望遠鏡による捜索により、へびつかい座に発見した 2002 LM60 という仮符号の付けられたもので、太陽系外縁部に存在するエッジワース・カイパーベルト天体の一つです。
エッジワース・カイパーベルトというのは、太陽系外縁部に存在する氷や岩石からなると思われる小天体の群れの名称です。1992年に最初の天体が発見されてから、すでにその数は500個を超えています。いまでは冥王星も、このエッジワース・カイパーベルト天体の一つであると考えられていますが、まだ冥王星の大きさを凌ぐ天体は見つかっていません。直径が高い精度で推定されている小天体の中で、最大のものは20000番の登録番号が付けられたヴァルナ(Varuna)でした(天文ニュース(400)、(445))。サブミリ波という波長の短い電波観測と可視光の観測により、その直径が約900キロメートルと求められていました。
今回の2002 LM60 という天体は、パロマー山での発見時の見かけの明るさが18.5等と、外縁部小天体の中では極めて明るいものでした。しかも、その軌道を計算してみると、冥王星よりもさらに15億キロメートルほど遠方を巡っていることがわかり、かなり大型の天体であると予想されたのです。そのため、この7月と8月にハッブル宇宙望遠鏡の観測が行われました。そして、宇宙望遠鏡の高い空間分解能を生かして、地上からでは点像にしか見えない小天体の姿を有限の大きさのある像として初めて撮影に成功し、その直径を約1300キロメートルと求めたわけです。
ブラウンらは、この天体にアメリカ先住民の伝説に出てくる「万物が誕生するきっかけを与えた存在」にちなんでクワイワー(Quaoar)と命名することを提案しています。ただ、正式に命名されるには国際天文学連合 (IAU) の承認が必要になります。
太陽系の果てにあるエッジワース・カイパーベルトの観測研究が始まってから、まだ10年しか経っていません。これからも冥王星に迫る、あるいは冥王星を抜き去るような大型の天体が見つかるかもしれません。ちなみに国立天文台のすばる望遠鏡でも、これらの小天体の観測が行われており、すでに22個の発見がなされています。絶対数は少ないものの、その発見効率は世界最高を達成しており、今後の活躍が期待されています。
2002年10月11日 国立天文台・広報普及室