【転載】国立天文台・天文ニュース(588)

ガンマ線バーストの光学同定の最速記録更新


 ガンマ線バースト (γ(gamma) rays burst) というのは、数秒から数10秒の短時間に強いガンマ線を放射するもので、宇宙の遠方で起きている非常に強力な爆発現象と思われています。1日に1回程度の頻度があるのですが、どこで起きるかわからないこと、継続時間があまりにも短いこと、詳しい爆発のメカニズムはまだよくわかったとはいえません。ガンマ線そのものは大気で吸収されて地上に届かないことから、衛星観測が主になるという欠点もあります。1997年以降、ガンマ線バーストの起きた後に、可視光での残光(アフターグロー)の存在が判明し、数々の追跡観測が試みられてきました。しかし、衛星がガンマ線を捉え、その位置を特定し、その情報をもとに地上で観測を開始するには少なくとも一時間以上かかってしまうのが実状でした。初期の多波長観測を実施できれば、ガンマ線バーストの起源に肉薄することができます。ですから、ガンマ線バースト発生から、できる限り短時間で位置決定をして、その情報を地上に降ろし、自動望遠鏡などを稼働させると共に、インターネットを通じて世界中の研究者に情報を伝える必要がありました。

 このような衛星・地上の迅速な連携を目指して、NASA(アメリカ航空宇宙局)が2000年10月に打ち上げたガンマ線・X線観測のための衛星がHETE2 (High Energy Transient Explorer 2)です。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、理化学研究所、フランス(CESR)とが共同で設計・建造したものです。1号機は打ち上げに失敗しましたが、この2号機は順調に稼働を続け、連携でも成功を収めてきました。そして10月4日12時06分14秒に発生したガンマ線バーストでは、なんと発生後約50秒という最短記録でバースト発生と、その位置を世界中に知らせることに成功しました。この速報により多くの追跡観測が行われました。10分後にはパロマー山天文台の自動望遠鏡が稼働し、15等台の明るい残光を同定しました。日本でも岡山県・美星町の美星天文台や京都大学のグループが残光観測に成功したほか、東京大学理学部木曽観測所のシュミット望遠鏡や、オーストラリア・サイディング・スプリング天文台の2.3メートル望遠鏡などで分光観測が行われ、バースト源の距離は70億光年以上と算出されています。

 今回の追跡では、速報が早かったことに加え、残光が明るかったためにアマチュアの活躍も目立ちました。イギリスやフィンランドではミード社のLX200という口径30センチメートルクラスの望遠鏡にCCD素子をつけただけの簡単な装置で、貴重な残光の観測に成功しています。さて、天文アマチュアといえば、世界的にレベルが高く、層が厚いのが日本です。今後のガンマ線バーストの追跡観測に日本のアマチュアが参入し、HETE2がもたらす速報をもとに大きな成果を上げるのは、時間の問題かもしれません。

参照

2002年10月11日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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