【転載】国立天文台・天文ニュース(575)
東北大学を中心とする共同研究チームは、すばる望遠鏡による観測から、宇宙が生まれてわずか10億年しかたっていないころの、星が爆発的に誕生している銀河を発見しました。さらに続けて行われた、すばる望遠鏡とケック望遠鏡での観測により、この銀河から宇宙空間へ高速に噴き出す水素ガスの存在が明らかになりました。ガスの噴出は、銀河内部で星が活発に形成されているためと考えられています。宇宙が150億年前にはじまったとすると、この銀河までの距離は140億光年以上となり、高速に水素ガスを噴き出している銀河の中では最も遠方の天体です。
東北大学の大学院生・安食優(あじきまさる)さんと同 助教授・谷口義明(たにぐちよしあき)さんらは2002年2月、ろくぶんぎ座にある "SDSSp J104433.04-012502.2" と呼ばれる遠方のクエーサーと同距離に存在している銀河を探すため、クエーサーの周囲をすばる望遠鏡の広視野撮像カメラ(Suprime-Cam)に新たに開発したフィルターを付けて、10時間にもわたって撮影しました。
その結果、明るく写る15個以上の銀河を発見することに成功しました。2002年3月、そのうちの遠方の銀河である可能性の高い一つの天体に対して、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置(FOCAS)を使ってスペクトルを調べる分光観測を行いました。得られたデータからは、この天体が予想通りに非常に遠方の銀河(赤方偏移 z=5.69)であることが確かめられました。
宇宙が150億年前にはじまったとすると、この銀河までの距離は約140億光年、生まれて約10億年しかたっていない、とても若い銀河の姿ということになります。
2002年3月には、マウナケア山頂にあるケック II 望遠鏡に取りつけた観測装置(Echellette Spectrograph and Imager; ESI) を用いて、この銀河の詳しい分光観測も行ないました。その結果は、すばる望遠鏡による成果を支持するもでした。さらに非常に興味深いことに、この銀河から秒速数100キロメートルの高速なスピードで噴き出す水素ガスの存在を確かめたのです。
太陽の10倍以上もあるような重い星は、わずか数百万年から数千万年のうちに超新星爆発を起こすことが知られています。活発な星の形成と超新星爆発を繰り返すことで、銀河内部にあったガスが宇宙空間に噴き出すことがあります(スーパーウィンド現象)。
今回発見した若い銀河でも同じメカニズムで水素ガスが噴き出していると考えられています。つまり、そのような現象を示す最も遠方にある銀河をとらえたといえるでしょう。宇宙が誕生して数億年のころには大規模な星の形成が起こっていたという証拠を見つけたといえます。
今後もすばるをはじめとする大型望遠鏡の観測によって、宇宙が生まれたころの銀河の誕生や進化について、明らかになっていくと期待されています。
本成果は、2002年9月1日発行のアストロフィジカル・ジャーナル誌に掲載される予定です。
2002年8月9日 国立天文台・広報普及室