【転載】国立天文台・天文ニュース(555)
国立天文台の光赤外干渉計グループが、三鷹キャンパスで開発を進めている光干渉計 MIRA-I.2(Mitaka optical/InfraRed Array計画 I.2) で、光の干渉によって生じる星の干渉縞(フリンジ)を初めて検出することに成功しました。
この成功は 2002年6月8日(土)午前1時頃、薄雲を通してのこと座のアルファ星(ベガ、0等級)の観測で達成されたものです。雲の影響で星の明るさが通常の数分の一になっていたため、ファーストフリンジはノイズに埋もれて見逃してしまいそうなものでした。しかし、基線長30メートルの光干渉計でのフリンジ検出の成功は日本では初めてであり、将来の光赤外線の干渉技術開発への大きな一歩といえるでしょう。
光干渉計は何度かとりあげられています(天文ニュース426、494)が、複数の望遠鏡を離して設置し、それらをあたかも巨大な望遠鏡の一部であるかのように動かすことによって、細かいものを見分けることができる装置です。どれだけ細かいものを見分けることができるかは、観測波長と望遠鏡間の距離(基線長)で決まっています。MIRA-I.2 の場合は、基線長が30メートルで、赤い光(大体700から800ナノメートル。1ナノメートルは10億分の1メートル)を見ているので、分解能は数mas(1mas : MilliArcSecond、ミリ・アーク・セカンド : は1000分の1秒角)になります。1masというのは、月の上にいる身長1.8メートルの人を見る大きさですから、いかに細かいものが見分けられるかが想像できるかと思います。
数masの空間分解能があると、巨大望遠鏡すばる(AOを使った時の分解能は0.06秒角程度、天文ニュース516)をもってしても点にしか見えない星を、有限の大きさをもったものとして捉えることができるようになります。MIRA-I.2では、この高い空間分解能をいかして、これからの数年間で、いろいろな星の大きさや重さを精密に測っていく予定です。
光赤外干渉計の開発はアメリカ、ヨーロッパが先行し、現在、8から10メートル級の巨大望遠鏡を擁するケック望遠鏡やヨーロッパ南天天文台の大望遠鏡群(VLTI)以外にも、昨年 9月に世界最長の 330メートル基線でのフリンジ検出に成功した CHARA(Center for High Angular Resolution Astronomy)や、今年1月に6素子の同時干渉に成功した NPOI(Navy Prototype Optical Interferometer)などさまざまな光赤外干渉計が稼動しています。今回の30メートル基線でのフリンジ検出成功によって、ようやく日本の光干渉計も世界の干渉計の仲間入りをすることができたところです。
今後は、この干渉計で得られるさまざまな技術や、天文学の成果を生かし、日本独自の干渉計計画の立案や次世代の赤外干渉計OHANA計画への参加を含め、さらなる発展が期待されます。
OHANA計画:ハワイの言葉で「家族」を意味するOHANA(Optical Hawaiian Array for Nano-radian Astronomy)は、すばる望遠鏡など、マウナケア山頂にある巨大望遠鏡群を光ファイバーで結合して 800メートルの長基線干渉計を実現する国際協力プロジェクトです。現在フランスのグループが中心となって計画を進めています。
すばるはまだ正式な参加は表明していませんが、干渉計グループでは、OHANA のための光ファイバーを使った干渉計の技術試験などを行って、成果をあげています。
MIRA-I.2、世界のその他の干渉計についての詳細は、下記のホームページでご覧になれます。
2002年6月6日 国立天文台・広報普及室
注:この天文ニュースは、位置天文・天体力学研究系/光赤外干渉計室の大石奈緒子(おおいしなおこ)さんに原文を作成していただきました。