【転載】国立天文台・天文ニュース(541)
直径1.1キロメートルほどの小惑星(29075)1950DAが、2880年3月16日に地球に接近し、現段階では衝突確率が0.3パーセントと、決して無視できないレベルであることがわかりました。
この小惑星は1950年2月23日に発見された後、長らく行方不明になっていたものです。2000年12月31日にアメリカ・アリゾナ州にあるローエル天文台、ロネオス(the Lowell Observatory Near-Earth Object Search; LONEOS)チームによって再発見され、しっかりと軌道が決められました。その後、3月12.98日に地球から779万キロメートルのところを通過しました。これは月と地球の平均距離の約20倍に相当するニアミスでした。このニアミスの直前、アメリカのジェット推進研究所の研究チームによって、レーダー観測が行われ、この小惑星の直径や形状が判明しただけでなく、その軌道も精度良く決められたわけです。
この小惑星の軌道をずっと将来まで延長して計算すると、しばしば地球に近づくことがわかりました。なかでも2880年3月16日の接近では、地球への衝突確率が無視できないことが判明したのです。
これまでも、地球に接近する小惑星が発見された後、初期の軌道計算から地球への衝突の可能性が指摘され、その後になって取り消されるということがしばしばありました(例えば、国立天文台ニュース (392)など)。そのほとんどは、軌道の精度が足りないための一種の「誤報」といえるものでした。今回は、確率こそ0.3パーセントとごくわずかな値ではありますが、これだけ軌道の精度の良い小惑星で、無視できない衝突確率が得られたのは、今回がはじめてといえるでしょう。
では、この小惑星は本当に地球に衝突するのでしょうか? はっきりいって、それはわかりません。というのも、現在の軌道精度がこれだけ確かであっても、小惑星の素性や物理的特性によって、遠い将来の軌道が大きく異なってしまうからです。その最も大きな要因はヤーコフスキー効果(Yarkovsky effect)です。これは簡単にいえば、小惑星が太陽の光を受けて暖まり、その熱を赤外線で宇宙へ放射する時、放射する赤外線の反作用を受けるものです。直径1.1キロメートルの小惑星が赤外線から受ける反作用は、通常は計測不能なほど小さいのですが、「ちりも積もれば山となる」のたとえ通り、数百年間には非常に大きな影響を及ぼし、小惑星の軌道を大きく変えます。そのため、2880年の地球接近日時を約60日も変えてしまうほどです。これは軌道を不確定にする他の様々な要因(計算誤差、太陽の質量の減少、他の小惑星との接近遭遇、惑星質量の誤差、太陽光圧など)の総和に匹敵します。ヤーコフスキー効果は、小惑星の質量、自転軸の向きや自転周期、表面の反射率、熱伝導度などに複雑に依存しますから、これらがわからないと正確な見積もりができないのです。
いずれにしろ、衝突するかどうかは、次回の2032年、あるいはその次の2074年の地球接近時の観測次第といえるでしょう。
2002年4月5日 国立天文台・広報普及室