【転載】国立天文台・天文ニュース(528)
生まれたばかりと思われるミリ秒パルサーが発見されました。ハッブル宇宙望遠鏡による画像と、オーストラリアのパークス電波望遠鏡による観測結果を合わせて得られた結果です。
パルサーは、1967年にケンブリッジ大学のベル(Bell,J.)とヒューイッシュ(Hewish,A.)が発見した天体です。数秒という短い周期で規則正しく電波のパルスが観測されることから、パルサーと名付けられました。実体は自転する中性子星で、その回転のたびに電波が観測者に届くのです。
パルサーの中には自転速度が非常に速く、毎秒数100回もの自転をして、数ミリ秒という短い周期でパルスを出しているものがあり、「ミリ秒パルサー」と呼ばれています。現在、90個ほどのミリ秒パルサーが知られています。どうしてこのような高速自転をするようになったのか、常識では不思議に思われます。これを説明するものとして一般的なのは、ゆっくり自転している中性子星と赤色巨星との連星からミリ秒パルサーが生まれるという考え方です。赤色巨星から放出される物質は中性子星の表面に衝突して中性子星の自転を加速しますから、それによって中性子星の自転速度はしだいに速まります。一方赤色巨星はだんだん質量を失って、最後に白色わい星が残ります。これで結局ミリ秒パルサーと白色わい星の連星が残るというシナリオになります。事実、これまでに発見されたミリ秒パルサーは、すべて白色わい星との連星でした。
今回発見されたミリ秒パルサーのPSR J1740-5340 は、南天の「さいだん座」のNGC6397と呼ばれる球状星団の中にあり、毎秒274回の高速自転をしています。一連の観測からわかった最大の特徴は、連星となっている相手の星が白色わい星ではなく、赤色巨星だということです。この赤色巨星の直径は白色わい星の100倍もあり、同じ質量の主系列星の5倍もあります。この赤色巨星とミリ秒パルサーは1.35日の周期で相互に回り合っています。上記の誕生シナリオに沿って考えますと、赤色巨星がまだ健在なのですから、ミリ秒パルサーは誕生して間もないものに違いありません。ミリ秒パルサー自転の加速はまだ続いていると思われます。このようなパルサーをわれわれは初めて観測したのです。このパルサーを詳しく観測することで、ミリ秒パルサーの進化過程について、さらに新しい知見が得られることでしょう。
2002年2月21日 国立天文台・広報普及室
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