【転載】国立天文台・天文ニュース(524)

惑星の成長は有機物が決め手


 太陽系の形成時に、惑星の成長には「有機物」の存在の影響が大きいことが明らかになりました。原始惑星系星雲では、チリに含まれる有機物が効果的な糊の役割りを果たしてチリ同志をくっつけ、惑星の成長を速めるというのです。

 原始惑星系星雲では、そこに含まれているチリがくっつき合って惑星に成長すると考えられています。しかし、チリ同志が衝突しても、それらが付着するとは限りません。高速で衝突すれば、相互のチリは壊れてバラバラに飛び散ってしまいます。ケイ酸塩や氷による実験から、これまでは、相対速度が毎秒15センチ以上になると、チリ同志はもう付着することはないと考えられていました。そうだとすると、初期の原始星雲は乱流状態にあるので、チリ同志の衝突速度は大きく、チリはくっつき合うことがありません。したがってこの時期に惑星の成長は起こらないというのが、これまでの一般的な考え方でした。

 ところで、チリには有機物も含まれています。ケイ酸塩の表面に、氷に包まれた有機物の層があるのが代表的な形です。氷の一部は気化しているかもしれません。

 ここに目をつけた北海道大学の香内晃(こうちあきら)さんたちのグループは、有機物を含んだチリの衝突実験をおこないました。具体的には、表面を有機物で覆った銅板に直径1センチの銅球を落とす実験を繰り返し実施したのです。その結果は驚くべきものでした。有機物を含むチリは桁違いにくっつき易く、毎秒5メートル以下の速さでは、ほとんどくっついてしまうことが明らかになったのです。粒子が小さければ、さらに高速でもくっつくでしょう。もっとも付着力が強かったのは、温度が250Kのときでした。

 原始惑星系星雲で250Kの温度のところは、ちょうど小惑星帯に当たります。そうだとすると、これまで惑星は出来ないと考えられていた初期の時代にも、小惑星帯でもっとも速く惑星が成長することが推定されます。しかし、その領域にはまだかなりのガスが存在するので、ある程度の大きさに成長した小惑星はガスの抵抗を受け、太陽の方向に落下してしまいます。小惑星帯に大きな惑星が存在しないことはこの考え方によって説明できると、香内グループは考えています。

 いずれにしても、有機物の大きな糊効果によって、太陽系形成理論の一部に見直しの必要が生じたと思われます。

参照

2002年2月7日 国立天文台・広報普及室

注:この天文ニュースは、北海道大学、香内晃さんから、全面的に資料をいただきました。


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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