【転載】国立天文台・天文ニュース(508)
ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst;GRB)は、非常に遠距離の銀河での爆発現象であり、ときにはビッグバン以来、最大規模の爆発として引き合いに出されることもありました。しかし、最近の観測から、その爆発のエネルギーはそれほど大きいものではなく超新星の数倍程度であること、どのGRBもおよそ等しいエネルギーで爆発すること、実際のGRB現象は観測されるよりも遥かにたくさん起こっていることがわかってきました。
GRBは高エネルギーのガンマ線が数10秒到来する短時間の現象で、1日に数回程度ランダムな方向から地球に到達します。1969年の発見以来謎の現象とされていましたが、ガンマ線放射に続いて、光、X線、電波などの残光が数週間からときには数ヶ月にわたって観測できるようになり、観測の面からもモデル構築の面からも、GRBの研究はここ数年間急速に進み始めました。
GRBの爆発エネルギーが大きいことは、主として爆発エネルギーがあらゆる方向に等方的に出されるという仮定によっていました。しかし、ごく狭い範囲にジェット状に物質やエネルギーが放出され、そのジェットがたまたま地球を向いたものだけを観測していると考えれば、全エネルギーがそれほど大きい必要はなくなります。
あるGRBから、仮に頂角が8度の円錐の範囲に、地球に向けて、光速に近い速さでジェットが噴出されたとします。このとき地球から観測できるのは、その円錐の中心部分にあたるごく一部、たとえば1度の範囲だけです。そのジェットが周辺物質に衝突して減速するにつれて、観測できる範囲が2度、3度と増えてきます。この理由は特殊相対論が絡むので、詳しい説明は困難です。やがて8度全部を観測できるようになると、それ以上観測範囲は増えません。残光は時間が経つにつれてどんどん暗くなりますが、この8度全部を観測できるようになった時点で光度曲線が急に折れ曲がり、急速に暗くなります。つまり、残光の光度曲線の折れ曲がりから、ジェットの頂角がわかるのです。
アメリカ、国立電波天文台のフレイル(Frail,D.A.)たちは、距離のわかっている17個のGRBの光度曲線を観測して、そのジェットの頂角を測定し、そのエネルギーを見積もりました。その結果、GRB爆発のエネルギーは以前に考えられていた数1000分の1であり、どのGRBでも10の43乗ジュールの5倍程度であることがわかってきました。GRBの明るさがさまざまなのは、主として観測者に対するジェットの向きによるものであり、観測できないものを含めると、実際のGRB数は、観測数の数100倍になると思われます。
2001年12月27日 国立天文台・広報普及室