【転載】国立天文台・天文ニュース(505)
宇宙に大量の存在が推定されている暗黒物質の候補の中で、MACHO(Massive Compact Object;マッチョと読みます)と呼ばれる天体を初めて直接に観測することができました。このMACHOは、暗い小さいM型のわい星でした。
銀河回転速度や銀河団の構造の研究から、宇宙には光を出して目に見える物質以外に、その10倍にも達する多量の物質が目に見えない形で存在すると推定されています。これが暗黒物質といわれるもので、重力を周囲に及ぼすことだけからその存在が認められます。しかし、その正体が何であるかわからず、天文学上の大きな謎になっていました。そして、暗黒物質のひとつの候補と考えられているものにこのMACHOがありました。MACHOとは、惑星サイズのブラックホール、中性子星、冷えた褐色わい星など、ある程度の大きさと質量をもちながらほとんど光を出さない天体の総称です。
MACHOは宇宙にどのくらい存在するのでしょうか、ローレンス・リバモア国立研究所、粒子天体物理学研究所、オーストラリア国立大学などの研究者は、1991年にMACHOを探す計画をスタートさせました。彼らは重力マイクロレンズ現象を利用してMACHOを探すことにしました。MACHOとほとんど同じ方向でさらに遠くにある天体の光は、重力マイクロレンズ現象によって拡大され、実際よりも明るく輝くからです。遠くの天体との間には相対運動がありますから、この増光がいつまでも続くのではありません。数日から数ヶ月明るくなった後、その天体はもとの明るさに戻ります。つまり、遠い天体の一時的な増光を手がかりに、近いところのMACHOを探すというわけです。
観測チームは、マウント・ストロムロ天文台の専用望遠鏡で大マゼラン雲にある1000万個以上の恒星の明るさを測り、重力マイクロレンズ現象を探しました。その結果、20個ほどMACHOの候補天体を発見しました。その位置をハッブル宇宙望遠鏡によって精査したところ、6年前に100日ほど増光を起こした星のすぐ近くに、かすかな赤い星があることかわかりました。口径8メートルのVLT望遠鏡による分光観測も加えて、この星は600光年の距離で、太陽の5−10パーセントの質量をもつM型のわい星であることがわかりました。またその質量は、観測された増光の状態と理論的によく一致していました。こうして、ひとつのMACHOがM型のわい星であることが確認されたのです。この観測は、暗黒物質のかなりの部分がMACHOであろうことを強く示唆するものとなりました。
2001年12月13日 国立天文台・広報普及室