【転載】国立天文台・天文ニュース(503)

ラマダンとイスラム暦


 現在イスラム教徒はラマダン(断食月)の最中です。つぎに新月を見ることができる12月16日頃にラマダンが終わり、イスラム教徒は賑やかにラマダン明けのお祝いをします。アフガニスタンでの戦争のせいもあってか、最近はこの種の質問が多いので、ここでイスラム暦とラマダンについて、ごく簡単な説明をしましょう。

 主としてイスラム世界で使用されているイスラム暦(ヒジュラ暦ともいう)は、純粋な太陰暦です。月が満ち欠けをする朔望月を1ヶ月として、12朔望月を1年とします。したがって1年は354日か355日しかありません。そのため、年初の日は季節に対して毎年10日ほど早まり、季節との一致はありません。季節とのずれは32年半ほどで一巡して、初めの季節に戻ります。イスラム暦はヘジラ(ヒジュラ)といわれる西暦622年7月15日(ユリウス暦)に、その年初である紀元1年ムハラム月1日が始まっています。

 つぎに、各月の始まりが朔の日ではないという特徴があります。朔のあとの月が西の空に初めて見えた日が月の始まりと決められているからです。したがって、暦をつくるには月を視認することが問題になります。そして、月が見えたか見えないかで、同じイスラム暦を使っていても、地域により、宗教指導者により、また観測を委託された科学者により、月初めの日が異なることも起こります。天候条件などで月を見ることができない場合には、その月が始まって30日経過すれば、つぎの月を始めていいことになっています。また、一日は日没にはじまり、つぎの日の日没で終わると定められています。

 ラマダンはイスラム暦の9月に当たります。そして、この月はイスラム教徒の義務として、日の出から日の入りまでは一切の飲食をしてはならないのです(幼児や妊婦などは例外とします)。ラマダン月の始まり、終わりは、上記のように月の視認が条件となりますから、このときは月を見ることが特に重要な問題になります。

 新月の視認は、もっとも条件のよいときで、朔の15.4時間後といわれますが、通常は24時間以上経たないと見ることはできません。そのため、月を視認できる日を決めるため、球面天文学、天体力学、月理学、大気物理学、眼科学などを総動員して、理論的な研究がおこなわれているそうです。しかし、結局は人間の目による視認に頼るのが現実です。

 イスラム教もイスラム暦も日本にはなじみの薄いものですが、イスラム教は中東、エジプト、アラビア、トルコからインドネシアに至るまでの広い範囲で、約6億の人に信仰されている宗教です。国際的な理解を深めるためには、イスラムについて多少なりとも知識をもっていた方がいいのではないでしょうか。

参照

2001年12月13日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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