【転載】国立天文台・天文ニュース(501)
マイクロクェーサーのひとつとして知られているGRS1915+105と呼ばれるX線源中のブラックホールの質量が、太陽の14倍程度であることが解りました。この質量はこれまでのモデルと合わず、議論を呼び起こしています。
GRS1915+105は1992年に発見されたX線源で、光速に近い速度で細いジェットを間欠的に噴き出している活動的な天体です。この種の天体は、超巨大ブラックホールからジェットを噴き出しているクェーサーになぞらえて、マイクロクェーサーと呼ばれています。
GRS1915+105は見かけ上「わし座」の銀河の中にあり、約4万光年離れたところの、ブラックホールとKまたはM型巨星との連星であることがわかっています。巨星から質量の一部がブラックホールに落ち込み、それがジェットの噴出につながっていると思われます。X線、赤外線、電波による観測はおこなわれていますが、銀河ダストに遮られて可視光の観測はできず、連星としての各種パラメータは不明でした。ただ、X線放射の準周期的変動がブラックホールの自転速度に関係し、自転速度とブラックホールの質量が比例するといった理論的モデルにより、そのブラックホールの質量が太陽の4倍程度であろうと間接的に推定されているだけでした。
ドイツ、ポツダム天体物理研究所のグライナー(Greiner,J.)たちは、ヨーロッパ南天天文台がチリ、セロ・パラナル山に建設した4基の8メートル望遠鏡のひとつを使って、波長2.29 -2.41マイクロメートルでの赤外分光観測を行い、GRS1915+105の巨星の方から、一酸化炭素のスペクトルを検出しました。そのスペクトルを2000年4月から8月まで追跡して、その結果から、連星のパラメータを「軌道周期:33.5日、軌道面の傾き:70度、連星間の距離:0.005天文単位、ブラックホールの質量:太陽の約14倍」と求めることができました。ただし、軌道面の傾斜を決めるには数年間にわたるジェット噴出の観測データを使い、ブラックホールの質量推定には巨星の質量を太陽の1.2倍と仮定しています。
ブラックホールの質量が直接観測からこうして導き出されましたが、それが新たな問題を生み出しました。この質量はこれまでの推定より大きすぎますし、マイクロクェーサーに対して考えられていたどのモデルとも合いません。これまでのモデルに誤りがあるのでしょうか、それとも、今回の質量の直接決定に何か問題があったのでしょうか。この不一致は、今後にまたたくさんの論文を生み出すに違いありません。
2001年12月6日 国立天文台・広報普及室
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