【転載】国立天文台・天文ニュース(499)

M87銀河核のエネルギー源は何か


 銀河M87はその銀河核に巨大なブラックホールがあり、そこからガスやダスト のジェットが数1000光年もの長さで噴出しています。しかし、そこにエネルギー を供給するべきダストの円盤がM87には存在していないことが観測されました。 それでは、M87の銀河核は、どこからエネルギーを得ているのでしょうか。

 M87は「おとめ座」にある大きな楕円銀河で、地球からおよそ5000万光年の距 離にあります。比較的近距離にある銀河ですから、見かけの大きさは角度で7分 くらいあり、かなり詳しく観測、研究がおこなわれています。

 M87の中心にあるブラックホールは太陽系程度の大きさと推定され、そこに太 陽の30億倍もの質量が詰まって、明るく輝いています。光さえ出ることができ ないブラックホールが明るく輝いているというのは矛盾のようですが、ブラッ クホール自体が輝くのではなく、周囲のガスやダストなどがブラックホールに 落ち込んでいくときに、光などの大きなエネルギーを放出しているのです。銀 河中心にあってこのように高いエネルギーを活発に出しているブラックホール などを、一般に活動銀河核といいます。そして、活動銀河核の周辺には、そこ にエネルギーを供給するガスやダストの円盤が存在するというのが、これまで の標準的な考え方でした。

 メリーランド大学のパールマン(Perlman,E)たちは、2001年5月7日および10日 に、ハワイの口径8メートル、ジェミニ北望遠鏡にフロリダ大学の高性能赤外ス ペクトルカメラOSCIR(Observatory Spectrometer and Camera for Infrared)を 装着して、合計7時間にわたりM87の観測をおこないました。そして、波長10.8 マイクロメートルで、地上望遠鏡としてはこれまでにない分解能で、M87の像を 得ることに成功しました。しかし、そこにブラックホールを取り巻くダストの 円盤は見えませんでした。ここから考えると、円盤が存在するにしても非常に かすかなものに違いありません。「ケンタウルスA」や「はくちょうA」などの 活動銀河核に比べて、1000分の1程度にすぎないとパールマンは述べています。

 M87のようにダストの円盤が存在しない銀河の中心核では、どのようにエネル ギーを作り出しているのでしょうか、これまでの活動銀河核のモデルには再考 の余地があるように思われます。

参照

2001年11月29日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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