【転載】国立天文台・天文ニュース(294)

マーズ・クリメイト・オービターが失われた


 NASAの発表によりますと、火星探査機マーズ・クリメイト・オービターは、火星周回軌道に入るのに失敗し、失われたと推定されています。

 火星長期探査計画の一環として昨年12月11日にケープ・カナベラル基地から打ち上げられたマーズ・クリメイト・オービターは、順調に飛行して予定通り火星に到着しました。そして火星周回軌道に入るため、この9月23日9時(世界時)、主エンジンに5分間点火しました。しかし、その後火星の向こう側に入った探査機は、再びその姿を現すことはありませんでした。おそらく、火星に落下したものと思われます。引き続きにその追跡をしていたNASAも、24日になってその捜索をあきらめました。せっかく長距離を飛行して火星にまで到着したのに、残念なことです。

 どうしてこのようなことが起こったのでしょうか。その後の検討によりますと、主エンジン点火の高度が低すぎたため、探査機を火星上の高度150キロメートルを通過させる予定のところ、その高度が実際には60キロメートルしかなかったのが原因ということです。大気の抵抗が大きすぎて、探査機が火星上空を通過できず、落下したのでしょう。この事故は、遠く離れた惑星の探査に、いまなお多くの困難があることを示しています。

 火星探査の長期計画として、NASAはつぎつぎに探査機を火星に送っています。マーズ・パスファインダーが1997年7月4日に火星に着陸し、さまざまな観測をしたのは、いまなお記憶に新しいところです。また、マーズ・グローバル・サーベイヤーは昨年9月24日に火星に到着し、周回をしながら現在火星の測量をしています。さらに、マーズ・ポーラーランダーは、この12月に火星に到着して、南極付近に着陸する予定です。今回失われたマーズ・クリメイト・オービターは、火星大気の詳しい観測をするはずでした。

 マーズ・クリメイト・オービターが失われたからといって、火星探査計画が中断することはありません。多少の変更や遅延は避けられないかもしれませんが、今後も計画は推進されます。

参照

1999年9月30日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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