【転載】国立天文台・天文ニュース(284)

カッシーニ、地球をフライバイ


 アメリカ航空宇宙局(NASA)・ジェット推進研究所(JPL)の発表によりますと、土星探査機カッシーニは、8月18日12時28分(日本時間)に地球のフライバイを無事に完了し、その後予定通りの軌道を順調に飛行しているということです。

 このフライバイの際、カッシーニは、西経128.5度、南緯23.5度の南東太平洋上でもっとも地球に近付き、1171キロメートルの高度のところを、ほぼ黄道に沿って西から東へ通過しました。望遠鏡を使えば、ピトケアン島、イースター島あたりから、夕暮れの空にその姿を捕らえることができたかもしれません。

 現在の宇宙探査計画では、探査機を目標の天体に送るために、惑星のフライバイを利用することが多くなっています。惑星の表面スレスレに探査機を通過させ、惑星の引力を利用して加速する方法をフライバイ、またはスイングバイといいます。場合によっては、何回もフライバイを繰り返すこともあります。この方法によると燃料消費を大幅に節約できますので、宇宙探査の経費を節減するにはうってつけの方法です。

 カッシーニは、NASA、ヨーロッパ宇宙機構(ESA)、イタリア宇宙機関が協同して開発した土星探査機で、1997年10月15日に打ち上げられました。土星に到達するまでに7年もかかり、その後数年にわたる観測が予定されていますので、その間に必要なエネルギーをまかなうためにプルトニウム電源を使用しています。しかし、地球をフライバイする際に万一地球に落下するようなことがあると、プルトニウムが飛散して地球環境を汚染します。そのため、環境保護団体がこのフライバイに反対していました。カッシーニの地球に対する相対速度は時速5万8000キロメートルもありますから、フライバイ後1日で、月の数倍も遠くに達します。プルトニウム汚染の心配はもはやまったくなくなりました。

 カツシーニは今後木星に向かい、2000年12月30日に木星をフライバイしてから土星に向かいます。2004年7月1日には土星周回軌道に入り、土星、その衛星、土星の環などを観測する予定になっています。また、土星最大の衛星タイタンに「ハイゲンス」と呼ばれる観測器を2004年11月30日にパラシュートで投下し、その大気の状態を調査する計画もあります。タイタンは水星よりも大きく、太陽系では大気をもつただひとつの衛星です。窒素の大気、メタンやエタンの湖などがあり、有機分子の存在が推定され、ある意味で地球に似ています。この観測でどんな結果がもたらされるか、いまから楽しみです。

参照

1999年8月19日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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