【転載】国立天文台・天文ニュース(279)
月探査機ルナープロスペクターが、日本時間の1999年7月31日19時頃、月の南極付近のクレーターに衝突し、連絡を絶ちました。地球上のいくつかの望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡がその瞬間を逃すまいと観ていましたが、その衝突は捉えられなかったようです。
ルナープロスペクターは、1998年1月に打ち上げられ、月の上空30kmの高さを周回しながら地質調査を行なってきました。月面に大量の凍った水を発見するなど数々の成果をあげてきました。この探査機の最後の仕事は、月の地表に衝突することでした。衝突のエネルギーは、2トントラックが秒速1100メートルで衝突するのとほぼ同じです。この衝突で、もし運良く月表面近くに広がる氷が粉砕されるようなことになれば、衝突地点に火山噴火のような砂煙が立つでしょう。
米テキサス州のマクドナルド天文台ほか、各地の天文台ではこの衝突を観測するスケジュールが計画されました。もしかしたら水蒸気のプルーム(雲の柱)が観測できるのではないかと期待されていました。もしそうであれば、月に水が存在するはっきりした証拠になったはずです。しかし残念ながら今回の衝突では、期待していたようなプルームを観測することはできませんでした。
プルームを地上から観測できなかったからといって、月に氷がないということにはではありません。たとえば探査機は、硬い氷の岩盤を外れて衝突してしまったのかもしれません。また仮に、プルームが最良の条件で生じていても、月地表から高さわずか22キロメートル、明るさは月の縁の10万分の1であれば、検出されなくても不思議ではありません。いずれにせよ、今回の観測はまだ解析中です。
地球以外の太陽系天体に水が存在するかどうかという謎は、科学的に大変重要な問題です。まず、月に水があるかどうかという謎に決着をつけるためには、探査機を月に着陸させ、月の表面を掘ってみる必要があるのかもしれません。しかし今のところ、こうしたミッションは計画されていません。
なお、2年前に交通事故で亡くなられ、1994年に木星に衝突したSL9(シューメーカー・レビー第9)彗星の発見者でもある、地質学者・天文学者、ユージン・シューメーカー博士の遺灰の一部もこのルナープロスペクターに載せられており、世界初の月面葬となりました。
参考:
1999年8月5日 国立天文台・広報普及室