【転載】国立天文台・天文ニュース(272)
昨夜は七夕祭りでした。竹に短冊を下げ、星に願いをかけた思い出は、どなたにもあるのではないでしょうか。旧暦を使っていた時代に設定した7月7日をそのまま現代の暦の日付に移したため、この日は梅雨の最中になり、現実にはめったに星を見ることはできません。七夕でせっかく星に寄せようとした関心を、その夜に裏切られてしまうのは残念なことです。
しかし、今年はめずらしく晴天に恵まれたところが多く、日本の各地で、たくさんの人が、天の川に隔てられた牽牛星、織女星を探しながら星空を仰いだと思われます。嬉しいことでした。豪華な七夕飾りを競って人集めをはかるところもあり、それはそれで結構ですが、このような催しでは、星を見るよりも、七夕飾りを見ることが中心になってしまうかもしれません。昔から有名な仙台の七夕祭りは、一ヶ月遅れの8月に開催されます。
天の川に隔てられている織女星と牽牛星が1年に1回だけ会うことができるという伝説は、ロマンチックで人の心をひきつけます。しかし、そのために、国立天文台には「牽牛と織女が近付くのは何時ころですか、ぜひ見たいのです」といった問い合わせがよくあります。そのたびに担当者は「この話は伝説であり、実際に二つの星が近付くのではありません」と説明しなければなりません。
質問で、「織女星(ベガ)と牽牛星(アルタイル)はどれだけ離れているのか」を聞かれることがあります。ざっと計算して、14〜15光年と答えていますが、今回、これをできるだけ正確に計算してみました。
恒星の位置と視差を高精度に観測したヒッパルコス衛星のデータに基づきますと、2000.0における二星の位置と年周視差はつぎのようになります。
赤 経 赤 緯 年周視差 ベ ガ 18h36m56s.31 +38゜47' 1".3 0".12993 アルタイル 19h50m46s.99 +8゜52' 6".0 0".19444
ここから計算しますと、二星の見かけ上の角距離は33.364度になります。また、太陽からの距離は、ベガが25.103光年、アルタイルが16.774光年に相当します。したがって、簡単な計算から、ベガとアルタイルとを隔てる空間の実距離が14.428光年であることが求められます。仮に光速で駆けつけたとしても、牽牛が織女のところに辿りつくには14年半もかかるのです。
1999年7月8日 国立天文台・広報普及室