【転載】国立天文台・天文ニュース(271)
小惑星は、その大きさも質量も決定が困難であるため、10年前までは、その密度についての具体的な観測はありませんでした。反射スペクトルを隕石と比較して、その隕石の密度を推定値とするのがせいぜいでした。
木星探査機ガリレオが1991年に小惑星(951)ガスプラに、1993年に小惑星(243)イーダに接近観測をした際、はじめてその大きさと質量を決定し、密度を求めることができました。。その後探査機ニアが1997年に小惑星(253)マチルドに近付いて、この密度も決定できました。イーダ、マチルドの密度はそれぞれ1立方センチあたり2.6および1.3グラムで、予測よりずっと小さい値でした。ガスプラの密度は特に小さくはありませんでした。密度の数値の決定精度は10パーセント程度と見積もられています。
それより前に、バイキング探査機などで火星の衛星フォボス、ダイモスの密度がそれぞれ1立方センチあたり1.5〜2.2グラムおよび1.3〜1.7グラムと求められています。この密度も岩石型の天体としてはかなり小さいものです。観測例が少ないので断定することはできませんが、フォボスもダイモスも小惑星タイプの衛星ですから、小惑星の低密度はかなり一般的な傾向なのかもしれません。反射スペクトルによる隕石の密度を正しいと仮定しますと、これらの小惑星は、内部に10〜40パーセントの空隙があることになります。
イギリス、ランカスター大学のウイルソン(Wilson,L.)らは、この低密度を説明するのに、二つの考え方を提案しています。ひとつは、これまでにもしばしば述べられた考えで、衝突などでいったんバラバラにこわれた小惑星の破片が重力によって再集合し,現在の小惑星になったというものです。ちょうど砂利を積んだようなもので、内部に空隙が多いことがこれで説明できます。マチルドには大きいクレーターがあり、このような衝突,破砕があっても不思議はないように思えます。もうひとつ彼らが提案しているのは、小惑星が始め岩石と氷とが混合した形で形成されたと考え、長期間のうちにその氷が気化したため、内部に空隙の多い形になったという説明です。カイパーベルトの小天体が氷を主成分とするなどといった話を聞くと、この説明ももっともだという気がします。
もちろん、どちらが正しいがすぐには結論の出せる問題ではありません。それ以外の解釈かあるのかもしれません。いずれにしても、今後,探査機が接近観測をするたびに、どのような密度が観測されるのか,興味がもたれます。
参照
1999年7月1日 国立天文台・広報普及室