【転載】国立天文台・天文ニュース(265)
5月末にNASAの発表ということで、「宇宙の年令は120億才か136億才」という報道がありました。新聞などでご覧になった方もあることでしょう。
宇宙がいつ誕生したかを知ることは、天文学の目標のひとつです。ビッグバン・モデルによりますと、宇宙の年令はハッブルの定数、宇宙の物質密度、宇宙項の3個のパラメータで決まります。先日の報道は、ハッブルの定数が、ハッブル宇宙望遠鏡の観測で、より精度よく決定されたことによるものでした。
膨張しつつある宇宙の膨張速度を表わすものがハッブルの定数です。銀河の後退速度は距離に比例して増加し、その比例定数がハッブルの定数に当たります。後退速度はスペクトル観測で比較的容易にわかりますから、ハッブルの定数を求めることの本質は、銀河の距離を独立に測定することに尽きます。それが非常に困難であるため、これまで、ハッブルの定数の精密決定が困難で、永い間、50−100km/s/Mpcなどといわれたのでした。
アメリカ、カーネギー天文台のフリードマン(Freedman,Wendy)らのグループは、さまざまな方法でこれまでに距離がわかったと考えられている18個の銀河に対し、ハッブル宇宙望遠鏡によって、その中のケフェイド変光星800個を観測することにより距離の決め直しをおこないました。それを通して、距離決定の方法によって、得られるハッブルの定数が異なることを知りました。さまざまに異なる種類のハッブルの定数を総合して、彼女らは70km/s/Mpc の値を最終的に導いたのです。この数値の不確かさは8パーセントということです。この数値に基づいて、上記の120億才、あるいは136億才の数値が求められました。数値が異なるのは、宇宙年令を決めるその他のパラメータが確定されていないためです。
これでハッブルの定数は決着したのでしょうか。そんなことはありません。以前からハッブルの定数を研究しているサンデージ(Sandage,Allen)は、やはりハッブル宇宙望遠鏡による観測から、61km/s/Mpcを求めて、フリードマンらと議論を続けています。しかし、以前に問題にされた「宇宙年令よりも恒星の方が古い」といった矛盾がほぼ避けられるところまで精度が上がったのは確かなようです。
参照
1999年6月10日 国立天文台・広報普及室