【転載】国立天文台・天文ニュース(258)

火星にプレート・テクトニクス?


1960年代に、地球物理学の分野で、地球表面の地殻がいくつかのプレートに分かれ、それぞれが剛体として移動しするという、プレート・テクトニクスの考え方が提案されました。これによってさまざまな地学現象が統一的に説明できることから、プレート・ テクトニクスは、その後の地球観の主流となりました。

 プレート・テクトニクスは、太平洋海底に地磁気の縞模様が発見されたことに始まります。大洋底の海嶺から生み出されたプレートは、そのときの地磁気の方向に帯磁しながら冷えて、年間数センチの速さで両側に広がります。一方、百万年に数回の割合で地磁気南北極の逆転が起こりますから、そのたびに生み出されるプレートの帯磁が逆になり、海嶺を中心として、左右対称の地磁気の縞模様を作り出したのです。

 現在、火星を周回しながら観測を続けている探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーは、楕円軌道を円軌道に直すため、火星表面から100キロメートル近くにまで下降して大気中に入り、何度も大気によるブレーキをかけました。探査機の高度が低いときには、地表に対する磁力計の分解能が高まるので、細かい磁場の分布がわかります。こうした偶然のことから、火星表面の磁場がしだいに明らかになってきました。その結果、驚いたことに、古い地殻が分布している火星の南半球で、約200キロメートルの幅ごとに帯磁が逆転して縞模様になった筋が、何本も東西方向に平行に伸びているのが発見されたのです。中には2000キロメートル以上の長さの筋もありました。

 地球とは違い、火星には全体にわたるダイポール型の磁場はありません。したがって、現在、その内部に磁気ダイナモがあることは考えられません。しかし、この事実から、火星にも、過去には現在の地球のように磁気ダイナモが動いていた時代があり、その時代の火星磁気の逆転を刻み込んだ岩石が今なお残されている、つまり火星にもかつてプレート・テクトニクスがあった可能性が考えられるのです。

 火星に発見された磁気の縞模様は、地球のものとはかなり異なります。幅が10倍も広く、湧き出し口からの対称のパターンもはっきりしません。プレート・テクトニクス説をとるならば、これはプレートの移動速度が速いか、磁極逆転の間隔がずっと永いかを意味するのでしょう。しかし、この縞模様の形成には何か別の説明があるのかもしれません。とにかく、まだ発見されたばかりの事実なのです。

参照

1999年5月20日         国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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