【転載】国立天文台・天文ニュース(254)
アメリカ、ニューヨーク州立大学のチェン(Chen,Hsiao-Wen)らは、「赤方偏移 z=6.68をもつ、これまで観測された中ではもっとも遠い銀河を発見した」と発表しました。この銀河がどのような手順で発見されたか、簡単にお知らせしましょう。
この発見につながる観測は、1997年12月23日から26日にかけて、ハッブル宇宙望遠鏡の宇宙望遠鏡撮像分光器(Space Telescope Imaging Spectrograph;STIS)を使っておこなわれました。目標となったのは、ハッブル深宇宙星野に近い「おおぐま座」の一角です。その星野に対し、フィルターなしの直接像を82回、合計4.5時間の露出、またG750L回折格子をつけ、スリットなしの分散像を60回、合計13.5時間の露出でそれぞれ撮影したのです。
こうして得られた直接像、分散像を標準のイメージ・プロセシング法で整約し、それぞれを重ね合わせて合成像を作り、それをもとに解析がなされました。分散像にはたくさんの銀河があり、それらのスペクトルが重なりあっている上に、空の明るさによるノイズが加わっています。これらを分解し、それぞれの銀河に対する一次元スペクトルに直す作業が計算によっておこなわれました。この過程で直接像と位置を比較する必要があるのです。この星野には約250の銀河があり、分散像を分解するには、25万個ものパラメータ(250銀河に対しそれぞれ1000ピクセル)決定を必要とする膨大な計算です。
こうした計算の結果、それぞれの銀河に対して一次元スペクトルが得られ、そこから赤方偏移が求めることができました。今回報告された最遠の銀河はその中のひとつで、赤経 12h36s27.5S、赤緯62゜17'55.4" に位置する27.7等の銀河です。そのスペクトルには、波長933.7ナノメーターのところに輝線がありました。チェンらは、これを波長121.6ナノメーターの水素ライマン・アルファ線によるものと判定し、そこから、赤方偏移 z=6.68 が求められたのです。この判定が正しいことを保証するため、その他にさまざまな検討がなされています。
これが正しいなら、この銀河の光は、宇宙年令が現在の20分の1のときに出たことになります。宇宙年令を150億年とするなら、わずか7.5億年しか経っていないときの光です。初期の宇宙を研究するためには、このように若い時代の銀河を観測することが非常に重要です。しかし、このぐらい遠い天体になりますと、zが大きく増えても、宇宙年令は少ししか若くなりません。
この銀河の実距離がどのくらいになるかは、ハッブル定数、減速パラメータをどのようにとるかによって異なります。仮にハッブル定数を 50km/s/Mpc、減速パラメータを0.5としますと、120億光年余りの距離になります。
「最遠の銀河」は新しい観測によってしばしば更新され、そのたびにニュースとして報道されます。したがって、今回お知らせした記録も、多分、近い将来に更新されることになるでしょう。
参照
1999年4月22日 国立天文台・広報普及室