【転載】国立天文台・天文ニュース(251)

火星が5月に最接近


 最近、日が暮れると、東の空に赤く、明るい星が見えるのに気付かれた方もあるでしょう。これが火星です。夜中の0時前後に南中します。4月25日に衝になり、5月2日2時(いずれも日本時)に地球に最接近します。そのときの明るさはマイナス1.6等、地球からの距離は8650万キロメートル、見かけの直径は16.2秒に達します。これだけの距離に近づくのは1990年の接近以来9年ぶりのことです。この日だけに限りません。前後1か月くらいの間、口径10センチ以上の望遠鏡で観察して見ましょう。シーイングがよければ、明暗の模様が見えるはずです。馴れない方には観察がむずかしいかもしれませんが、トライしてみてください。

 火星は、地球の外側の軌道を687日の周期で公転し、地球との会合周期は780日になります。したがって、2年2ケ月足らずで会合し、そのたびに最接近を繰り返します。ただし、火星の軌道面が地球の軌道面に対していくらか傾いていること、火星の軌道が地球よりもつぶれた楕円であることのために、衝の日と最接近の日は必ずしも一致せず、両者の日付が8日ぐらいまでずれることがあります。

 いま説明したように、火星の軌道はかなりつぶれた楕円ですから、軌道上のどの位置で接近するかによって、最接近の距離が異なります。8月末から9月始めにかけての接近が大接近になるということで、およその見当がつけられます。もっとも条件がよいと、5560万キロメートルにまで近付き、火星の見かけの直径が25秒にも達します。しかし、2月末から3月はじめの最接近ですと、1億1500万キロメートルぐらいまでしか近づかないこともあります。このときは、見かけの直径が14秒足らずにしかなりません。一方、火星が太陽の向こう側にまわる合のときには、3億8000万キロメートルもの距離に遠ざかり、見かけの直径は4秒にもなりません。

 近い将来には、2001年6月22日の6734万キロメートルの接近に続いて、4年後の2003年8月27日に、5576万キロメートルという火星の大接近が起こります。これはめったにない大接近ですから、期待していいでしょう。火星がこれ以上に近づくのは、そのあと2287年までありません。

 火星には、現在、マーズ・クリメイト・オービターとマーズ・ポーラーランダーという2機の探査機が向かっています。また、その後も探査計画が目白押しで、火星の岩石を持ち帰る計画も進んでいます。このような時代に、いくら火星が接近したからといっても、望遠鏡で見るのはいささか時代遅れと感じる方もあるでしょう。それはまことにもっともなことです。しかし、観測条件がよいときに、望遠鏡を通して、直接自分の目で火星を見るのは、また格別の味があります。この5月の接近のとき、100倍の倍率で見れば、理論上、火星は肉眼で見る月ぐらいの大きさに見えるはずです。したがって、そこに何か興味を引く模様が見える可能性もあります。ただし、良いシーイングにはなかなか恵まれませんから、火星の観測が困難であることを実感するだけになるかも知れません。

1999年4月15日         国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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