【転載】国立天文台・天文ニュース(248)

連星の褐色わい星発見


 ハッブル宇宙望遠鏡の観測によって、褐色わい星のひとつが連星であることが確認されました。これによって、近い将来、褐色わい星の正確な質量が求められることが期待されます。

 簡単にいえば、褐色わい星とは、質量が不足で一人前の恒星になりそこねた星です。星を構成するガスの質量が太陽の7.5パーセント以下ですと、水素がヘリウムに変わる核反応が起こらず、恒星になることができません。それでも、木星の13倍以上の質量があれば、重水素の反応が起こり、いったんは星としての光を放って褐色わい星となります。しかし、やがて温度が下がって暗くなり、しだいに冷却して、観測できなくなります。

 1995年に、初めてGL229Bが褐色わい星として確認されてから、系統的な捜索がおこなわれて、他にもいくつかの褐色わい星が発見されています。GL229Bは恒星の伴星として発見されましたが、独立に存在する褐色わい星もあります。今回連星であることが認められた褐色わい星デニス1128-15(完全な名称はDENIS-P J1228.2-1547)は、独立の星として確認された2番目の褐色わい星に当たり、「かみのけ座」にあります。

 カリフォルニア大学のマーチン(Martin,E.L.)らは、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている近赤外カメラ、多天体分光器(Near-infrared camera and multiobject spectro-meter;NICMOS)を使用して、1998年8月14日に、上記のデニス1128-15を観測したところ、この褐色わい星は、ほぼ同じ明るさの二つの連星に分解されました。褐色わい星同志の連星が確認されたのは、これが初めてのことです。それぞれの明るさは、H等級で、主星が13.98等、伴星が14.13等と観測されました。また、見かけ上の間隔は、角度の0.275秒でした。

 このデニス1128-15までの距離は、分光視差などから、およそ60光年程度と推定されます。したがって、主星と伴星との間隔は、投影面上で5天文単位程度と見積もられます。いまのところ、主星、伴星の質量はわかっていません。主星のスペクトルにリチウムが検出されたことから、太陽質量の6パーセント以下であろうと想定されるに過ぎません。いま仮に主星、伴星の質量をともに太陽の5パーセントとし、軌道長半径を5天文単位としますと、軌道を一周する周期は35年程度になります。それなら、数年観測を続ければその軌道が決定できるでしょうし、そこから、主星、伴星の正確な質量を求めることができるはずです。これらは、褐色わい星の生成や進化を考える上で、貴重なデータとなるに違いありません。

 マーチンらは、独立に存在する別の褐色わい星 Kelu 1 の観測も同様におこないましたが、これには連星の兆候は観測できませんでした。たった2星の観測ですが、二つのうちのひとつが連星であったことは、連星の褐色わい星がごく普通の存在であることを想像させます。今後また、連星の褐色わい星の発見が報じられることがあるかも知れません。

参照

1999年4月1日           国立天文台・広報普及室


 国立天文台紹介ビデオ第2巻「電波でさぐる宇宙」が完成しました。

お問い合わせは「財団法人・天文学振興財団」(〒181-8588 東京都三鷹市大沢2-21- 1 国立天文台内、TEL 0422-34-8801;平日・午前10:00〜午後4:00、FAX 0422-34-4053、電子メール・アドレスはありません)まで。


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

[天文ニュース目次] [星の好きな人のための新着情報]