【転載】国立天文台・天文ニュース(234)
前回に続いて、冥王星の話題をお知らせします。1930年の発見以来70年近く9番目の惑星と呼ばれてきた冥王星が、惑星の座からすべり落ちかかっています。
冥王星が惑星であるかどうかは最近に始まった問題ではなく、実をいうと発見直後からいろいろ議論のあったところです。それは、他の惑星と異なる点がいくつもあったからに他なりません。一般の惑星がほとんど同一平面上でほぼ円軌道を描いているのに対し、冥王星は17度も傾いた軌道をもち、円軌道からのずれも大きく、軌道の一部は海王星軌道の内側にまで入りこんでいます。また、地球型の岩石惑星にも、木星型のガス惑星にも分類できない氷の天体であることも問題点のひとつです。他の惑星と比較すると、冥王星は非常に奇妙な存在なのです。
しかし、どのような条件を満たすと惑星となるか、明確な定義はないので、太陽系の外縁部を公転する天体として、冥王星はずっと惑星として扱われてきました。それを考え直すきっかけになったのが、このところ続いているカイパーベルト天体の発見です。
これらは、エッジワース・カイパーベルト天体(Edgeworth-Kuiper Belt objects; EKBOs)、超海王星天体(Trans-Neptunian Objects;TNOs)あるいはケンタウルス天体(Centaurs)などとも呼ばれる一群の天体で、その最初のものは、1992年にハワイ大学のジュイット(Jewitt,D.)とカリフォルニア大学のリュー(Luu,J.)が発見し、1992 QB1 と名付けられた直径280キロメートルほどの氷の天体でした。これは冥王星よりも外側に公転軌道をもっています。それ以後この種の天体がいくつも発見され、現在までに70個以上に達しています。そして、そのいくつかは冥王星に似た軌道をもっていることがわかってきました。このような点から見ると、大きさは多少大きいものの、冥王星はこれらカイパーベルト天体のひとつとみなす方が分類上妥当と思われるのです。マサチューセッツ工科大学のビンゼル(Binzel,R.)は、冥王星を惑星から外し、TNO天体1番のTN-1(あるいは0番のTN-0)として扱ったらどうかとの提案をおこないました。
一方、小惑星センターのマースデン(Marsden,B.)は、冥王星がTNO天体のひとつであることには同意していますが、TNO天体だけのリストを作ることに反対しています。その代わりに、現在その数を急速に増やしている小惑星リストに冥王星を加えたらどうかといっています。このリストの1000番、2000番、3000番といった切りのいい番号には記念として、ハーシェル、ヒッパルコスなどの有名人の名がつけられています(注)。昨年12月までに小惑星の番号は9826番に達し、近々10000番になることは確実です。冥王星をこの記念すべき10000番にしたらどうかというのがマースデンの提案です。 このような意見に対し、国際天文学連合は、太陽系に関係するメンバー約500人に対し、E-メールで意見を集めました。しかし、冥王星をどのように分類するかについて、大多数に支持されるような結論は得られませんでした。惑星から外すのはまあいいとしても、小惑星やTNO天体に分類するには、冥王星はちょっと大きすぎる(直径2200キロメートル)のです。したがって、天文学的立場からは、冥王星はもはや惑星とは考えられないというのが大多数の意見ですが、分類の面からは目下宿無しの状態になりました。それでも、一般の人々からは、これからもきっと「9番目の惑星」と呼ばれ続けるに違いありません。
注 小惑星の名 (1000) Piazzia (2000) Herschel (3000) Leonaldo (4000) Hipparchus (5000) IAU (6000) United Nations (7000) Curie参照
1999年1月21日 国立天文台・広報普及室