【転載】国立天文台・天文ニュース(232)

サンプルリターン計画


新年を迎えて、希望のもてる明るい話題をお知らせしましょう。

1月4日(日本時)に、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、火星探査機マーズ・ポーラーランダーをケーブカナベラル基地から打ち上げました。この探査機は録音マイクを搭載していて、火星で聞こえる音を録音し、地球に送ることになっています。火星表面でどんな音がしているか、やがて皆さんも録音をお聞きになる機会があるかもしれません。

このマーズ・ポーラーランダーは、火星の南極付近に着陸し、昨年12月に先立って打ち上げられている探査機マーズ・クリメイト・オービターと共に、火星の岩石を採取するための予備調査をおこないます。計画が順調に進めば、2003年、2005年に打ち上げる予定の探査機が火星の岩石を採取し、2008年に地球に持ち帰る予定です。

このNASAの計画は大がかりなものですが、日本でも、小惑星から岩石試料を採取する計画が進められています。ご存じない方も多いので、今回は、日本のこの計画についても簡単にお知らせします。

 これは、文部省宇宙科学研究所が全国の理・工学者と協力して進めているミューゼス-C(MUSES-C)計画と呼ばれているものです。探査の対象は小惑星4660番ネレウス(Nereus)で、これは1.82年の周期で太陽の回りを公転している小惑星です。直径は1キロメートル程度、15時間ほどで自転をしていると推定されています。

ミューゼス-C探査機は2002年初めに鹿児島県内之浦から打ち上げられ、2003年にネレウスに到着し、約2ケ月その周囲に滞在して観測をおこなうと共に、表面の3ケ所から岩石サンプルを採集する予定になっています。その後2006年に地球に戻り、採取した試料を封入したカプセルを投下、パラシュートを開いてカプセルは降下し、地上で回収される見込みです。これが小惑星サンプルリターン計画の概要です。

どのようにして岩石試料を採取するのかと疑問をもたれる方も多いことでしょう。現在考えられている方法は、サンプル採取器が小惑星表面すれすれにまで降下してから、5グラム程度の弾丸を秒速300メートルくらいで発射し、表面から跳ね上がる小惑星の破片を採取器の筒で覆って取り込むというものです。表面重力が小さいので、この方法で比較的効率よく試料が採取できると予想されています。計画が順調に進めば、NASAが火星の岩石を持ち帰るより先に、日本の研究者が小惑星のサンプルを手にすることができるかもしれません。

1972年にアポロ17号が月から岩石を持ち帰って以来、地球以外の天体からサンプルを採取したことはありません。また、隕石を除けば、人類はこれまで月以外の天体の試料に触れたこともないのです。火星にしても小惑星にしても、サンプルリターンの意義はきわめて大きく、計画が成功すれば、世界の研究者の関心を集めることは間違いありません。

参照

1999年1月7日          国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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