【転載】国立天文台・天文ニュース(222)

超高エネルギー宇宙線の起源天体


 天文ニュース(200)で、10の20乗電子ボルト以上の超高エネルギーをもつ宇宙線が観測されていることをお知らせしました。これら異常に大きいエネルギーの宇宙線を放出する起源天体に、コンパクト電波クェーサーの可能性が大きいことが示されました。

 このような高エネルギーにまで粒子を加速するためには、特別な加速機構が必要で、それに該当するものは、電波銀河かクェーサーの、強い磁場をもつ活動銀河核以外ににはないだろうと思われていました。以前に述べたように、陽子、中性子や、その他の原子核による宇宙線は、はじめにどんなに光速に近い速度であっても、長距離の宇宙空間を移動するうちに宇宙背景放射マイクロ波との相互作用で速度が落ち、10の20乗電子ボルトの5倍程度にまでエネルギーが減少することがわかっています。この値をグレーセン・ジョセピン・クズミン限界(Greisen-Zatsepin-Kuz'min cut off)といいます。しかし、現実には、この限界を越えるエネルギーの宇宙線が観測されています。このため、これらの宇宙線の起源天体は、クェーサーなどと比較して、ずっと近くであろうと思われていました。

 ニューヨーク大学のファラー(Farrar,Glennys R.)と、マックス・プランク研究所のビアマン(Biermann,Peter L.)は、このような超高エネルギーの宇宙線の現象5例について、その到来方向を解析しました。そして、そのすべての方向に、たとえば 3C147 のようなコンパクト電波クェーサーが存在することを突き止めました。コンパクト電波クェーサーとは、強い電波を出すクェーサーの一種で、これまでも、一部で、超高エネルギー宇宙線の起源天体である可能性が指摘されていた天体です。しかし、あまりにも遠距離にあるため、その指摘は重視されていませんでした。今回の結果を慎重に検討して、ファラーらは、この一致が偶然である確率は0.5パーセントに過ぎないと述べています。これは、超高エネルギー宇宙線がコンパクト電波クェーサーから生じていることを強く示唆するものです。そして、もっと近くに起源天体が存在するというこれまでの考えに、大きな疑問を投げかけたものです。

起源天体に関するこの考えが正しいとすると、限界を越えるエネルギーがなぜ保持されているかを説明しなければなりません。考えられているメカニズムのひとつに、たとえば、高エネルギーに加速された陽子が、起源天体のすぐ近くでハドロン(陽子、中性子、中間子、ラムダ粒子など質量の大きい素粒子)か光子に衝突する場合があります。このような衝突によって生じたニュートリノなどの粒子のうち、特にエネルギーの大きいものが宇宙線の伝播粒子となるというのです。ニュートリノにはグレーセン・ジョセピン・クズミン限界はありません。この説明は一例に過ぎず、その他のメカニズムも提唱されています。

 ファラーらの結果を確認するには、さらに多くの例について検証することが必要でしょうが、超高エネルギー宇宙線の起源天体をはるか遠くのクェーサーなどに探し求める時代が来たように思われます。

参照

1998年11月26日       国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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