【転載】国立天文台・天文ニュース(216)

明るい火球の出現


 10月28日の17時33分頃、非常に明るい火球が本州中部の広い地域で目撃されました。まだたくさんの人々が戸外にいた時間帯であったため、直接ご覧になった方も多く、国立天文台にも多数の情報が寄せられました。満月より明るかったという報告もありました。これらの情報を総合しますと、この火球は、ほぼ金沢市上空から西に向かって飛行し、日本海上で姿を消したものと推定されます。

 火球というと何か特別のものと思われるかも知れませんが、実は、流れ星の明るいものを火球というのに過ぎず、特に不思議な現象ではありません。どのくらい明るいものから火球と呼ぶのかはっきりした規定はありませんが、普通、目で見てもっとも明るい星である金星と比較して、それより明るいものを火球と呼ぶことが多いようです。火球は、太陽系内を運動している数10センチから数メートルくらいの大きさの小天体が、偶然に地球に衝突したときに、地球大気中で引き起こされる現象です。もっとサイズが小さい流れ星も含めて、地球には、1日に数10トンのこのような天体が落下しています。

 火球、一般に想像されているより遥かに頻繁に出現します。現在、火球を監視するために、毎夜、全天を写真撮影して観測を続けている方が日本に数名おいでになります。その結果を見ると、火球の出現は決して稀な現象ではないことがわかります。たとえば、今年の10月2日の23時50分頃にも、関東地方に明るい火球が出現したことが報告されています。この火球によって、室内にいても外が明るくなるのがわかったと述べている方もありました。ただし、火球の出現が深夜であったり、早朝であったりすると、ご覧になる方が少なく、天文台への通報はずっと数が減ります。

 このような火球が現われると、必ずといっていいほど「隕石が落ちたのではないか」と騒がれます。もちろん、隕石が落下する場合もありますが、ほとんどの場合、隕石落下につながることはありません。隕石は、そのスピードが遅いこと、初めの大きさがある程度以上あることなど、かなり恵まれた条件がないと落下しないのです。特に、常識に反するようですが、非常に明るい火球は、めったに隕石になりません。隕石になりやすいのは、むしろ、おとなしく、ゆっくり光る火球なのです。

 火球は、二ケ所以上の地点で写真撮影できると、その軌道計算が可能になり、隕石となったときにはその落下地点が推定され、また太陽系内のどこからやってきたかもわかります。それらの情報を集める目的で、今も監視が続けられているのです。

1998年10月29日          国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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