【転載】国立天文台・天文ニュース(211)
300年余りの歴史をもち、天文学者にも一般の人々にも親しまれてきたイギリスのグリニジ天文台は、この10月についに閉鎖され、その永い歴史を閉じることになりました。
1年前、天文ニュース(135)で、行政改革による経費節減のあおりを受け、グリニジ天文台の将来が危惧されていることをお伝えしました。グリニジ天文台の天文学者たちは民営化して廃止をなんとか食い止めようとし、廃止に反対する世界中の天文学者たちも声援を送りました。しかし、それも空しく、グリニジおよびエジンバラの王立天文台を運営している素粒子物理学・天文学研究協議会(the Particle Physics and Astronomy Research Council;PPARC)は、昨年12月12日その廃止を決定、グリニジ天文台をエジンバラ天文台に吸収して、カナリヤ諸島とハワイに望遠鏡をもつ、イギリスでただひとつの天文学技術センター(Astronomy Technology Center;ATC)を新たに発足させることにしたのです。グリニジ天文台の閉鎖によって、天文学に費やす費用が、ここ4年間は毎年320万ドル、その後毎年650万ドルの節約になるとPPARCは述べています。
ATCはこの10月に正式に開所し、それに伴って、現在ケンブリッジにあるグリニジ天文台は閉鎖されます。イギリス政府とPPARCは、ロンドン南東で、以前にグリニジ天文台があった経度0度の子午線上にある国立海事博物館(National Maritime Museum)に、新しく天文関係の展示を加え、そこにグリニシ天文台の名を残そうと諮っています。
グリニジ天文台の110人のスタッフのうち、数人は新ATCに移り、そのほか、現在の研究が一段落するまで一時的にケンブリッジ大学へ移るもの、民間の望遠鏡建設会社に移るものなどがいます。しかし、職を失うものも多数出ると思われます。PPARCは「今年の末までにほとんどの人が再雇用されることを期待する」と述べてはいますが、はたしてどうなるのでしょうか。他人事ではないような気がします。
参照 Nigel Williams, Science 281,p.1934-1935(1998).
1998年10月15日 国立天文台・広報普及室