【転載】国立天文台・天文ニュース(206)

月のコアの半径は300キロメートル程度?


今年1月7日に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査機ルナ・プロスペクターは、1月16日から月を回る極軌道に入り、月表面から約100キロメートルの高さ、周期118分で周回しながら、月の探査をつづけています。この探査機が月の極付近で多量の凍った水を確認したというニュースはお聞きになったことでしょう。搭載している中性子分光器、ガンマ線分光器、アルファ線分光器などによって、月表面の物質を詳細に調べることもこの探査の重要な目的ですが、一方で月の磁場、月の重力分布なども詳しく調査しています。その重力分布から、月に半径300キロメートル程度のコアが存在することが推定されました。

 月の中心部に鉄を多量に含む高密度のコア(核)が存在するかどうかは、月誕生の過去を知るための重要な鍵です。たとえば、地球のマントルの一部が分裂して月になったという説が正しいとするなら、月にコアが存在するはずはありません。アポロ計画以来なされたこれまでの探査では、月のコアの存在について、はっきりした結論が得られてませんでした。

 月表面の重力分布は、地上の電波望遠鏡でルナ・プロスペクターの軌道変化を追跡して求めます。この原理を簡単にいうと、月の一部に重力の大きいところがあれば、その重力に引かれて、その付近で探査機の高度が下がります。そういう状況を詳しく調べることで重力分布がわかるのです。こうして得られた、これまでにない高精度の重力分布図から、地球に向いている半球に、新しく3個のマスコン(Mass Concentration;周囲より密度の高い岩塊があり、質量が集中している地域)が、フンボルト海やメンデル・リュードベリなどに発見されました。また、全体の重力分布からは、正規化した極軸まわりの慣性モーメントが、0.3932 であることがわかりました。中心部にコアがなければこれだけの数値になることはありませんから、月にコアが存在するのは確実です。もしこのコアが純粋の鉄であるとすればコアの半径は220キロメートル、もっと密度の小さい硫化鉄であるとすればその半径は450キロメートルになります。現実には、おそらくこれらの値の中間の300キロメートル程度であろうと推定されます。地球のコア半径は地球半径の半分以上もあります。しかし、月のコアは月半径の2割程度の大きさしかありませんから、比較的小さいといえましょう。

 月がどのようにして生まれたかについては、上に述べたように、地球から分裂して生じたという説の他に、地球と同時に別々に誕生した、あるいは小惑星を捕獲したなどと、いろいろの説があります。しかし、現在学界をリードしているのは「ジャイアント・インパクト(大衝突)説」です。これをごく簡単に説明すると、原始地球に火星程度の大きさの原始惑星が衝突して地球からたくさんの物質の破片をはじきだし、それらの破片が後に合体して月になったというものです。今回求められたコアの大きさは、この「ジャイアント・インパクト説」に何の不都合をもたらすこともありません。

参照

1998年10月1日         国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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