【転載】国立天文台・天文ニュース(205)
今年は10月5日がいわゆる中秋の名月です。「通常は9月にお月見があるのに、今年はなぜこんなに遅いのか」という内容の問い合わせが国立天文台にも何回かありました。これについての説明をしましょう。
中秋の名月とは、十五夜ということからもわかるように、旧暦8月15日の夜の月のことです。この時期は湿度の高い夏が終わり、天候が比較的安定した秋となって大気が澄み、月を鑑賞するのに適当な季節になるので、年中行事としてのお月見の習慣が定着したものといえましょう。日本では9世紀末ころに、この夜の月を愛でる習慣が始まったといわれています。
ところで、現在の日本の暦はわれわれが通常使用している太陽暦だけで、旧暦という暦は公式には存在しません。カレンダーに旧暦が併記されているものもありますが、このような旧暦は一部で勝手に作っている私的な暦なのです。そうはいっても、この十五夜を含めたいくつかの年中行事のよりどころとして、いまでも旧暦は需要があり、編集が続けられています。ただし、現在編集されている旧暦は、日本が明治5年に太陽暦を採用するまで使用していた天保暦をそのまま延長したものではなく、過去に使われたことのない一種独特の暦です。なお、旧暦の編集に国立天文台は一切関係していません。
旧暦の一ケ月は月の満ち欠けで決められ、29日か30日のどちらかになります。その結果、12ケ月の1年はほとんどの場合354日か355日になります。これは通常の1年より10日ほど短いため、12ケ月を1年としてこの暦を使い続けると、たとえば旧暦8月15日は1年にほぼ10日づつ早い季節にずれて、秋から夏へ、そして春へと移ることになります。これでは都合が悪いので、旧暦ではときどき余分の月を挿入して季節の修正をします。この月が「うるう月」です。3月のあとに「うるう月」が入れば、その月は「うるう3月」と呼ばれ、3月が2回繰り返される形になります。「うるう月」の入れ方の規則はここでは省略しますが、だいたい19年に7回くらいの割合で「うるう月」が入ります。
今年の旧暦は、5月のあとに「うるう5月」が入ったばかりで、そのとき旧暦の日付が遅い方に大きく押し戻されたため、今年の中秋の名月は10月5日という遅い季節になったのです。理論上、もっとも遅い十五夜は10月8日に、もっとも早い十五夜は9月7日になることがあります。ついでに述べておくと、来年1999年の中秋の名月は、今年より11日早まり、9月24日になります。
1998年9月24日 国立天文台・広報普及室