【転載】国立天文台・天文ニュース(198)
南半球で星空を仰げば、北半球では見ることのできない特異な天体、大小ふたつのマゼラン雲を見ることができます。これらはともにたくさんの恒星を含む小型の銀河で、われわれの属する銀河系とともに、銀河の小集団を作っています。
25年前に、これらのマゼラン雲と銀河系をつなぐ中性水素の流れが、オーストラリア国立大学のマシューソン(Mathewson,D.S.)らによって発見されました。この流れはマゼラン流と呼ばれます。マゼラン流はマゼラン雲から尾を引くように、見かけ上幅10度、長さ150度にも達し、実長は20万光年にもなると思われます。
この発見以来、マゼラン流の起源についてさまざまな説が述べられました。有力な説のひとつに、銀河系との重力的潮汐作用によってマゼラン雲からマゼラン流が引き出されたというものがあります。しかし、流れの中に恒星が含まれていないこと、マゼラン雲の反対側に先行する流れのないことの二つが、潮汐説に対する主要な反論になっていました。重力は恒星にも作用しますし、潮汐作用なら、マゼラン雲の前後に対称に流れが生ずると考えられるからです。
オーストラリア国立大学のパットマン(Putman,M.E.)らのグループは、オーストラリア、パークス天文台に設置されている口径64メートルのパークス電波望遠鏡を使って、天球の南半分に対し、中性水素の精密な掃天計画ハイパス(The HI Parkes All-Sky Survey;HIPASS)を推し進めています。これは、速度幅 -1200km/s から +12700km/s の範囲で中性水素の存在を調べる計画で、繰り返し5回のスキャンが予定されています。
今回、ハイパス観測による、赤緯-62度より南の範囲の、1回目のスキャンの結果が報告されました。それによりますと、いままで観測されていなかったマゼラン雲に先行する部分の流れが、大小マゼラン雲から25度以上も細く伸びている様子がはっきり認められます。この流れの中に恒星はまだ発見されていませんが、先行する流れが発見されたことは、マゼラン流の潮汐起源説を支持する有力な証拠と考えられます。つまり、銀河系との潮汐作用により、マゼラン雲はふたつに引き裂かれる形で、その両側に物質が引き出されているのです。
参照1998年8月27日 国立天文台・広報普及室