【転載】国立天文台・天文ニュース(179)
国立天文台がハワイに建設中である口径8.3メートル(有効口径8.2メートル)の大型天体望遠鏡「すばる」については、ご存じの方が多いことでしょう。「すばる」の建設は着々と進み、今年中のファーストライト(望遠鏡として天体の光をはじめて受け入れること)が予定されています。
今回お伝えするのは、やはり大型望遠鏡ですが、「すばる」ではなく、ヨーロッパ南天天文台(European Southern Observatory;ESO)がチリに建設している世界最大の望遠鏡VLT(Very Large Telescope)についての話です。
ヨーロッパ南天天文台は、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スエーデン、スイスの8ケ国が参加している天文学研究組織です。そして、すでにチリ、サンチャゴ市の北600キロメートルのラシーヤ(La Silla)に14基の光学望遠鏡と1基の電波望遠鏡を保有し、天体観測をおこなっています。最大の光学望遠鏡は、口径3.6メートルのものです。
しかし、VLTが現在建設されつつあるのはその地域ではなく、チリ北部、アントファガスタ市の南140キロメートルにあるセロ・パラナル(Cerro Paranal)の、標高2632メートルの山頂です。そして、VLTは単独の望遠鏡ではなく、口径8.2メートルの反射望遠鏡4基をリンクして、実質口径16.4メートルの巨大な望遠鏡にしようという壮大な計画なのです。これが完成すれば、確かに世界最大の望遠鏡になるでしょう。それぞれの反射鏡は厚さ18センチメートル、重量約22トンで、150本の支持機構(アクチュエーター)で支えられ、コンピュータで制御されて、反射鏡の形を適正に保つように設計されています。このあたりは、「すばる」とよく似ています。
反射鏡はパリ郊外のフランス光科学研究工場(REOSC)で研磨中ですが、その1枚はすでに研磨を終わってセロ・パラナルに運ばれ、最近、望遠鏡UT1(Unit Telescope 1)に載せられました。そして今回ファーストライトに成功したことが伝えられました。活動銀河のひとつである「ケンタウルスA」など、いくつかの写真が発表されています。世界最大の望遠鏡が、その一部とはいえ、いよいよ動き出したのです。しかし、まださまざまな調整作業が必要ですから、このUT1が定常観測に入るまでには、さらに1年はかかると思われます。
VLTが四つに分離していることは、光学干渉計として使える利点があります。干渉計として考えると、これは口径130メートルの反射鏡と同じ分解能をもつはずで、その分解能は1000分の1秒角に達します。しかし、干渉計として動作させるには、それぞれの反射鏡に入射した光の位相を合わせる高度な技術が必要になります。そのために、それぞれの望遠鏡の下に設けた光学遅延回路という複雑な装置を通してから光を結合しなければなりません。干渉計としてはこの点が鍵です。ここがうまく動作するなら、たとえば「ペガスス座51番星」を回る惑星を分離して見るといったことができるかもしれません。
4基の望遠鏡がそろって完成するのは2001年と予定されています。予定通りに進めば、VLTは、文字通り、21世紀の天文学の夜明けを告げる装置になることでしょう。
参照1998年6月4日 国立天文台・広報普及室