【転載】国立天文台・天文ニュース(171)
惑星状星雲は大きさのある光の塊りに見える天体で、望遠鏡で観察している人にとってはおなじみのものです。見かけがちょっと惑星に似ているためにこのように呼ばれますが、太陽系の惑星とは何の関係もありません。あまり質量の大きくない、太陽程度の恒星が、進化の最後の段階で白色わい星になるとき、周囲に放出したガスが惑星状星雲になると考えられています。こと座の「環状星雲(M57)」、こぎつね座の「亜鈴星雲(M27)」、おおぐま座の「ふくろう星雲(M97)」などはご存じの方も多いでしょう。昨年ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したいくつかの惑星状星雲の写真が公表され、その美しい姿に感動した方もあったのではないでしょうか。
惑星状星雲の写真を見て誰でもすぐにわかることは、ガスが周囲に等方的に拡散するのではなく、方向によってその広がり方に極端な差があることです。それによって、惑星状星雲は、それぞれ特徴のある独特の姿を示すといえましょう。しかし、どうして、ガスはこのように非対称な広がり方をするのでしょう。いくつかの理論はありますが、確定的なことはわかっていません。
惑星状星雲のスペクトルには、イオン化したガスの特徴的な強い輝線が見られます。しかし、ガスがイオン化して惑星状星雲の特徴を示すのは、せいぜい100年くらいの、天文学的には極めて短い時間で起こる変化と思われています。
アメリカ、メリーランド州の軌道科学社(Orbital Sciences Corporation)のボブロウスキー(Bobrowsky,Matthew)らは、ハッブル宇宙望遠鏡による「あかえい星雲(Spingray nebula)」の観測結果を発表し、惑星状星雲への進化に関して、いくつかの示唆的な事 実を述べています。
「あかえい星雲」は「さいだん座」にある惑星状星雲で、その形が魚の「あかえい」を連想させるところからこの名がつけられました。かなり南にあるので、日本から見ることはできません。この星雲でもっとも注目されるのは、ごく最近に惑星状星雲に成長したと推定されることです。たとえば1996年に出版されたSAO星表には SAO244567 と恒星として記載されていますし、その後も水素の輝線を出す早期星としての観測があります。しかし1980年代から惑星状星雲の特徴を示すことが確認され、恒星から惑星状星雲への変化が直接観測された例となりました。今回ボブロウスキーらによって、中性の水素、酸素や、電離した酸素、窒素、硫黄などにより、惑星状星雲として特徴的な、非対称に広がったガスが観測されました。さらに注目されたのは、この惑星状星雲の15.4等の中心星のすぐそばに、17等の伴星が発見されたことです。惑星状星雲のガス拡散の非対称性は、伴星の存在によってある程度説明できるからです。中心星と伴星の見かけの間隔は0.4秒、実距離は2200天文単位で、10万年くらいの周期で公転していると推測されます。
一方、1988年に国際紫外線天文衛星(International Ultraviolet explorer:IUE)が撮影したスペクトルからは、この星雲に毎秒3060キロメートルもの強い風が吹いていることが観測されました。しかしこの風は次第に衰え、今回の観測ではまったく観測されませんでした。多分、この風は止んだのでしょう。
これらの変化が、今後どうなっていくのかわかりませんが、「あかえい星雲」は惑星状星雲誕生の現実例として、さらに注意して監視することが必要と思われます。
参照1998年4月23日 国立天文台・広報普及室