【転載】国立天文台・天文ニュース(167)

おどろくほど平らな火星の北半球


火星の北半球は非常に平坦で、信じられないほど平らな低地が大きく広がっていることが確認されました。数100キロメートルにわたる範囲の起伏がせいぜい50メートル程度に過ぎないところもあるということです。

 1996年11月7日に打ち上げられた火星探査機「マーズ・グローバル・サーベイヤー」は、10ケ月余りの後火星に到着しました。1997年9月11日以降、45時間で火星を一周する楕円軌道に入り、さまざまな立場から火星の観測をおこなっています。観測機器のひとつのレーザー高度計は、赤外波長のレーザー・パルスを発射し、火星表面による反射波をとらえるまでの時間を測定して火星の表面地形を観測する装置です。約150メートル範囲の平均高度を10メートルの精度で測定できると考えられています。

 マーズ・グローバル・サーベイヤーのレーザー高度計による観測は1997年9月15日に始められ、11月7日までに、火星の経度で20度おきに、北緯80度から南緯5度までの18本の南北コースが観測されました。その解析から、北半球が非常に平坦な地形である事実がわかったのです。解析をおこなったNASA、ゴダード・スペースフライトセンターのスミス(Smith,D.E.)らによりますと、北緯7度、東経248度にある巨大なタルシス高地を別にすれば、平らな低地がすべての経度のコースに対して南北2000キロメートルにわたって続き、平均的な面からの起伏は、50メートルからせいぜい400メートル程度ということです。この平坦面は南に向けて僅かに登り(傾き0.056度)になっています。解析グループのひとりであるマサチューセッツ工科大学のズーバー(Zuber,Maria)は「われわれがもっているデータでは、この地域は太陽系内でもっとも平らな表面である」と述べています。しかし、この平坦面から南の地域は、対照的に、クレーターの多い険しい山地です。

 どうして、火星の北半球はこのように平らなのでしょうか。類似の地形を探すと、地球上では、南大西洋の海底が比較的にこの平坦面と似ています。ここから、過去の火星の海底で起こったプレート運動による地殻の湧き出しが、平坦な地形を生み出したとも考えられます。また、何億年も前に大きな小惑星が火星に衝突して広い低地を作り、その後水流が細かい粒子を運んでその低地を埋めたて、このように極端に平坦な表面を作ったとする推測もあります。あるいは、大規模な溶岩流によってこの平地が生じたのかもしれません。

 レーザー高度計は、火星の表面地形を観測することはできますが、その組成についての情報を得ることはできません。しかし、マーズ・グローバル・サーベイヤーは、高度計のほかに、広角、狭角カメラ、熱放射分光器、磁力計、その他の観測機器を搭載しています。このおどろくほど平らな地形の成因を明らかにするには、これら各種の機器による観測結果も総合して考察することが不可欠と思われます。

参照

1998年4月2日          国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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