【転載】国立天文台・天文ニュース(161)
主として海王星より遠い太陽系外縁部に、ほぼ円軌道で太陽を回っている小天体がすでに60個以上も発見され、カイパーベルト天体(Kuiper-belt Objects;KBOs)と呼ばれていることはご存じでしょう。これらの天体の色を観測した結果、赤いものと青いものにきれいに分かれて、中間色のものは存在しないという結果が得られました。
これらの天体は非常に暗く、発見すること自体がたいへん困難ですから、まして、その色を観測することは容易ではありません。しかし、その性質を探る物理的観測の第一歩として、この種の測光観測はたいへん重要です。北アリゾナ大学のテグラー(Tegler,S.C.)らは、あえてこの困難に挑みました。彼らは、スチュワード天文台の口径2.3メートル望遠鏡のカセグレン焦点にCCDカメラを取り付け、B(450nm),V(550nm),R(650nm)の三色測光をおこなったのです。
この種の天体の測光観測は、恒星とは異なる困難さがあります。地球の公転によって見かけの位置が移動するため、ときに背後の微光の恒星や銀河の光が入り込み、測定精度を下げます。カイパーベルト天体はその形が不整であるため、自転によって光度が変わります。暗い、移動する、さらに光度が変化するこのような天体の測光には、細心の注意が必要です。それでも彼らは、16個のカイパーベルト天体で、それぞれの波長に対し、その明るさに応じて、300秒から900秒の観測をすることに成功しました(3天体に対してBは未測定)。測定した天体の中には、比較的最近にカイパーベルトから海王星軌道の内側に落ち込んできたと考えられ、一般にセントールと呼ばれている、キロン、フォーラスも含まれています。
その結果は予想外のものでした。これらの天体は、はじめに述べたように、赤い一群と青い一群にきれいに分かれてしまったのです。ここで「赤い」といったのは天文学上の表現で、B-V等級が大きいことを意味します。実際の色は灰色味を帯びた褐色といった程度(B-V等級1.2等)です。同様に「青い」というのはB-V等級が小さいことで、現実には太陽程度の色(B-V等級0.7等)を意味します。それにしても、二群の色の差はB-V等級で0.5等級にも達し、測定の誤差よりずっと大きいのです。したがって、この二群には何か本質的な差があると考えられます。
では、その色の差は何を意味するのでしょうか。長半径、離心率、軌道傾斜角といった軌道要素との相関は見いだされていませんし、大きさとも関係はないようです。太陽風、宇宙線などの作用の差が表面の状態を変えたのかもしれませんが、いまのところはっきりしたことは何もわかっていません。この説明については、多くの観点から考えなければなりませんし、さらに観測データを増やすことが必要と思われます。
参照1998年3月12日 国立天文台・広報普及室