【転載】国立天文台・天文ニュース(157)
もっとも普通の隕石内には、コンドリュール(球粒)と呼ばれる数ミリメートル程度の球状の粒子がしばしば認められます。これらは、初期の太陽星雲中で生じた粒子です。ただ、コンドリュール内には放射性アルミニウムが崩壊した痕跡がなく、初期太陽星雲に存在した半減期74万年の放射性アルミニウムが崩壊しつくしてから数100万年以後に凝集したと一般に考えられています。
一方、同じ隕石中に、カルシウムやアルミニウムを多く含んだ一種のケイ酸塩で、CAIs(カイ)と呼ばれる物質も存在します。この中には放射性アルミニウムの崩壊した痕跡がありますから、コンドリュールよりもさらに古い時代に凝結したものと推定されています。
しかし、この事実は、力学的に考えた小粒子の年令と矛盾します。たとえCAIsができたとしても、初期星雲中のガスの抵抗でこの小粒子は10万年ほどで中心の太陽に落ち込み、コンドリュールが凝集するまで存在できないからです。
この矛盾を解決するために生み出されたのは、CAIsは小さいままで存在するのではなく、その他の物質も加えてさらに大きな微惑星に成長したという考え方です。1キロメートル程度の大きさになれば、抵抗の影響が小さくなり、太陽に落ち込まずに存在できるのです。しかし、そうだとすると、隕石を作るためには、コンドリュールが凝集する時期までに再び細かく破砕されなければなりません。
破砕が起こるためには、かなり高速で他の微惑星などと衝突する必要があります。また、それら破砕した破片がコンドリュールなどと共に隕石の母天体としてもう一度結合するためには、相対速度があまり大きくてはいけません。一方では高速が要求され、また一方では低速が要求されるので、この考え方にもかなりの困難があります。
これを解決するものとして、アリゾナ州、ツーソンの惑星科学研究所(Planetary Science Institute)のバイデンシリング(Weidenschilling,S.J.)らは、木星との軌道共鳴による理論を提案しています。木星がほぼ現在の大きさに成長した時点で、星雲ガスがまだ小惑星帯に残存していたなら、共鳴軌道にある微惑星の離心率が大きくなりますから近日点付近で高速になり、衝突破砕の条件を満たすこと、ガス中を高速で通過するときの衝撃波による加熱で小さい破片が溶けてコンドリュールを形成すること、さらにそれらが結合して第2次の微惑星が成長することのすべてが可能だというのです。彼らは、さまざまな条件でのシミュレーションによって、この可能性を確認しています。このシナリオが正しいとしますと、単に隕石に含まれる問題点を解決するだけでなく、木星形成の時期や、小惑星帯における星雲ガスの散逸の時期に対してもヒントを与えることになると思われます。
1998年2月12日 国立天文台・広報普及室