【転載】国立天文台・天文ニュース(155)

エウロパ観測の詳報


地上からの観測、また探査機ボイジャーの観測から、木星の衛星エウロパには、これまで、固体の中心部を厚さ150キロメートルの氷層が覆っているというモデルが考えられていました。しかし、最近のガリレオ探査機の観測では、氷層はそれよりもずっと薄く、その下に液体の海が広がっていることを強く示唆する結果が得られています。

エウロパに液体の水が存在するらしいことは、すでに天文ニュース(53),(100)でもお知らせしました。その後ガリレオ探査機はエウロパに何回も接近して撮像をおこない、1ピクセルあたり54メートルという高解像度の画像も得られています。その結果、表面に存在する凹み、ドーム、長く続く隆起や溝などの地形がはっきりとらえられました。それらの観測を詳細に解析した結果が、科学雑誌ネイチュアの最近号に発表されています。

その報告によりますと、エウロパの表面の大部分は、交差した筋状の隆起や溝に覆われていて、そのところどころに盛り上がったドームがあります。これらのドームは下層から水か比較的温度の高い氷が噴き上げて生じたように見えます。そのほか、200メートルの高さのある氷山と思われるブロックが、回転しながら数キロメートルも水平に移動していたり、傾いたりしている状態も観察されます。さらに、それらの間は、下から上昇した液体が水たまりを作っているように見えます。これらの事実は、表面の氷の層が、せいぜい2キロメートル程度の厚みしかないことを想像させるのです。

一方、ある長い帯に見える模様は、何本もの平行な溝がならんだ構造をしています。しかも、その凹凸の状況は、ある中心からみて見事に左右が対称で、まるで地球のプレートの湧きだしを見るようです。もちろん地球と同じメカニズムが作用しているのではなく、しだいに広がる氷の裂け目をふさぐように、つぎつぎに下層から水が上昇して作った形と推定されます。

この他にも、表面の比較的浅いところに、エウロパ全体に広がって液体の海が存在する、あるいは、近い過去に存在したらしいことを思わせる観測事実がいくつも得られています。まだ断定することはできないにしても、海をもつ天体は、太陽系の中で、地球だけではないらしいことがわかってきました。

太陽からの距離だけで考えますと、木星の衛星に液体の海があることなど、ちょっと考えられないような気がします。水はすべて固く凍りついているとしか思えません。しかし、巨大な惑星である木星の近くに存在するエウロパには、木星の大きな潮汐力が作用します。その潮汐力によってエウロパが内部変形を起こし、その際の発熱が氷を溶かして液体の海を作っているのであろうと推定されています。

参照

1998年1月29日          国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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