【転載】国立天文台・天文ニュース (63)

百武彗星からアセチレンを検出


 この3月に地球に接近し、長大な尾を引いた姿で夜空をにぎわせた百武彗星(C/1996 B2)は、今なお記憶されている方が多いことでしょう。この百武彗星からは、初めてX線放射が確認されたこと(天文ニュース 29)、初めてエタンが検出されたこと(天文ニュース 37)など、いくつもの発見があり、話題になりました。今回はそれに続く形で、百武彗星からアセチレンが検出されたことを報告します。アセチレンは、地球では溶接などに日常使用されるガスで、炭素原子、水素原子それぞれ2個づつが結合した分子です。

 アメリカ、ジェット推進研究所のブルーク(Brooke,T.Y.)らは、1996年4月8日、ハワイ、マウナ・ケアに設置されている口径3メートルのNASA赤外線望遠鏡によって百武彗星の赤外観測を行い、そこから3本のアセチレンの輝線を検出しました。アセチレンはこれまで C2 分子の親分子として存在が推測されてはいましたが、直接検出されたのは今回が初めてです。この検出は、彗星の起源を探る上でかなり重要な意味をもつものです。

 彗星がどうして生まれたかについてはさまざまな考えがありますが、大別して、つぎの二つに分けられます。ひとつは恒星間に起源をもつとする考え方で、恒星間のダストの表面に氷が凝着し、それらが集まって彗星核になったというものです。もうひとつは、原始太陽系において、原始太陽近くでいったん気化した氷と化学反応をするなどの過程を経てから、巨大惑星の重力によって太陽から遠いところに放り出され、いわゆるオールト雲を形作り、彗星の巣になったというものです。

 百武彗星から検出したアセチレンの量は、水に対する相対量として 0.3-0.9パーセントと見積もられています。この量は、恒星間の濃密な分子雲中の氷に存在すると推定されているアセチレンの量とほぼ見合うものです。したがって、百武彗星にかぎっていうと、恒星間でその核が形成された可能性が大きいことになります。

参照 Mumma,Michael J.,Nature,383,p.581-582.(1996).
   Brooke,T.Y. et al,Nature,383,p.606-608.(1996).

1996年10月24日        国立天文台・広報普及室


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転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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