【転載】国立天文台・天文ニュース (29)

X線を放射していた百武彗星


 百武彗星(C/1996 B2)は久し振りの肉眼彗星になり、たくさんの話題を残して太陽に近づいています。5月1日に近日点を通過し、その後はまつすぐに南へ移動しますので、もう日本から観測しやすい状態にはなることはありません。

 今回のこの彗星の接近時に、新しい事実が発見されました。それは百武彗星がX線を放射していることです。彗星がX線を放射することはこれまで知られていませんでした。

 マックス・プランク研究所のコンラド・デネール(Konrad Dennerl)、ゴダード・スペースフライトセンターのマイケル・マンマ(Michael Mumma)らは、X線観測衛星ローサット(ROSAT)を使って、3月26日から28日にかけて百武彗星を観測しました。実際に観測できたのは彗星が観測器の視野を通過する約2000秒でした。実のところ、結果はあまり期待されていなかったのですが、意外にも強いX線が検出されて、担当者をびっくりさせました。このX線は、もっとも条件のいい場合を仮定して理論的に計算した値の100倍も強いものだったのです。

 このX線は、彗星核から約3万キロメートル離れた太陽側のコマから出ていて、見かけ上三日月型の、かなり広い領域から放射されています。この位置からX線の放射があることは、コマ中の水分子と太陽から放射されているX線との相互作用による蛍光の一種の可能性がある、そうでなければ、太陽風がコマの周辺に集積することで生じた衝撃波との相互作用がX線放射につながったのかもしれないとマンマはいっています。いずれにしても、X線が放射されるメカニズムをはっきりさせるのはこれからの研究課題です。

 日本の人工衛星「あすか」はX線分光器を搭載しています。そこでこれらの観測者は、よりよいデータを得るため、7月初め、近日点を通過した百武彗星がふたたびローサットの視野にはいるとき、「あすか」を使って同時に観測することも考慮しているそうです。

参照 James Glanz,Science,272,p.194(1996).

1996年4月25日        国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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