板垣さん、高尾さん、中村さんがいて座に新星を発見

著者 :著者:前原裕之(国立天文台)

夏に見やすい星座の1つで私たちの銀河系の中心方向に見えるいて座の中にはこれまでに多数の新星が発見されています。今年だけでも2月に西山さんと椛島さんが発見したいて座新星2015(= いて座 V5667)と、3月に発見され肉眼でも見える明るさになったいて座新星2015 No.2(= いて座 V5668)の2つが発見されていましたが、さらにいて座の中に出現した新星としては今年3つ目となる新星が9月27日に発見されました。新星を発見したのは山形県の板垣公一さんです。また、福岡県の高尾明さんと三重県の中村祐二さんもこの新星を独立に発見しました。

板垣さんは9月27.429日(世界時、以下同様)に焦点距離180mmのレンズとCCDカメラを用いて撮影した画像から9.9等の新天体を発見しました。この天体は板垣さんが9月20日に撮影した画像や三重県の中村さんが9月23日に撮影した画像には写っておらず、この数日ほどの間に明るくなったと考えられます。この天体が発見された27日は全国的に晴れていたため、多くの新天体捜索者が観測を行なっていました。福岡県の高尾さんは27.447日に撮影した画像から、三重県の中村さんは27.419日に撮影した画像から、それぞれこの天体を独立に発見したほか、群馬県の小嶋さんは27.404日、茨城県の櫻井さんは27.418日(板垣さんの発見よりも前)にこの天体を含む領域を撮影しており、この天体が9等台で写っていたことを報告しています。この他にも福岡県の西山さんや千葉県の野口さん、清田さんなど多数の観測者がこの天体の確認観測を行ないました。板垣さんが発見直後に口径50cmの望遠鏡で行なった観測によると、この天体の位置は

赤経:18時03分32.75秒
赤緯:-28度16分05.4秒    (2000.0年分点)

です。

発見当日の夜のうちに岡山県の藤井さんやスペインのカナリア諸島にあるリバプール・ジョン・ムーア大学の2m望遠鏡によってによってこの天体の分光観測が行なわれ、この天体のスペクトルには水素のバルマー系列の輝線や一階電離した鉄の輝線がみられることが分かりました。また、水素や鉄の輝線には青方偏移した吸収線をともなう「P Cygプロファイル」がみられることも分かり、これらの特徴からこの天体が古典新星であることが判明しました。

この新星は発見翌日の28日には発見時よりもおよそ1等級明るい8.7等ほどの明るさで観測されましたが、29日には9.1等ほどにやや暗くなったことが観測されました。今後単調にゆっくりと暗くなるのか、それともいて座新星2015 No.2のように何度も増光と減光を繰り返すのか、今後の明るさの変化やそれに伴なうスペクトルの変化が注目されます。

参考文献

新星の画像

新星のスペクトル

2015年9月30日

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