【転載】国立天文台・天文ニュース(515)

ハローを含めた銀河系の質量と形


 最近の測定によると、太陽が存在するわれわれの銀河系の質量は、外側に広がる暗黒の銀河ハローを含めて、太陽の約2兆倍だそうです。この値は、15年前に考えられていた値より1桁大きくなりました。また銀河ハローの形は、長軸に対する短軸の長さの比が0.8の回転楕円体と考えられるということです。

 銀河系を含めて多くの銀河は、星によって光って見える部分の外側に、銀河ハローと呼ばれる暗黒の物質が分布しています。これは、銀河内の星がその中心の周りをどのくらいの速度で回っているかを示す回転曲線の研究などから明らかになってきたことです。そして現在は、星が分布している部分の質量よりも銀河ハローの質量の方がはるかに多く、銀河系質量の大部分をハロー部分が占めていることも確実になっています。

 2001年10月24日から26日にかけ、イタリアのベニスで、ヨーロッパ南天天文台とミュンヘン大学天文台との共催によるワークショップ「低、高、赤方偏移銀河の質量(The Mass of Galaxies at Low and High Redshift)」が開催されました。ここでまず議論されたのが、いま述べた銀河系の質量の問題でした。上記の質量値は、いくつもの球状星団の最新の視線速度観測結果から導かれたものです。球状星団は銀河系を取り巻くように存在し、その運動は銀河系の重力の影響を受けます。したがって、その運動状況から銀河系の質量の推定が可能なのです。これは、惑星運動から太陽質量の推定ができるのと似た状況です

なお、2010年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機構(ESA)の高精度アストロメトリー探査機ガイア(GAIA;天文ニュース386参照)によって銀河系の近くに存在する伴銀河の視線速度、接線速度の観測がおこなわれれば、さらに高精度で銀河系質量の見積もりが可能になるそうです。

 なお、上に述べたハローの扁平度からは、銀河系内における太陽の位置がこれまで考えられていたより銀河中心に近いこと、また、銀河の回転速度が国際天文学連合(IAU)で採用している値より小さいことが導かれます。この状況を太陽系で例えていうと、太陽の質量から惑星の距離と速度の関係が導かれるようなものです。銀河ハローの扁平度がもっと大きく、さらに平たくつぶれた形であるなら、太陽の位置も銀河の回転速度もより大きい値になるはずですが、それはほとんど考えられないそうです。

参照

2002年1月24日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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