【転載】国立天文台・天文ニュース(439)

地球型惑星を呑み込んだ星


 地球型惑星を呑み込んでしまったと推定される星が発見されました。「うみへび座」にあり、スペクトル型がG0のHD82943と呼ばれる6.5等星です。かなり太陽に似た星といっていいでしょう。この星は木星型惑星を2個もっていることがすでに確認されています。では、どうしてこの星が惑星を呑み込んだと思われるのでしょうか。

 みなさんは、リチウムという元素をご存知でしょう。原始番号3で、水素、ヘリウムについで軽い元素です。リチウムには質量数が6と7の2種の同位体があります。どちらも安定な同位体で、地球では存在するリチウムの約7.6パーセントがリチウム6です。

 このリチウム6は安定ではありますが壊れやすく、150万度くらいの温度になりますと、陽子の衝突でたやすく壊れてしまいます。したがって、星が新しく生まれたとしても、その中心部の高温と上層,下層をかき混ぜる流れのために、その星に含まれていたリチウム6は数100万年ですべてなくなってしまいます。ただし、それほど高温にならない惑星には、リチウム6はかなり残っていることが推測されます。

 スペイン、カナリア天体物理研究所(Instituto de Astrofisica de Canarias)のイスラエリアン(Israelian,G.)たちは、2000年6月に、チリ、セロ・パラナル山の口径8.2メートルVLT望遠鏡クェイエンの高分解能分光器での観測から、HD82943にかなりのリチウム6を検出しました。それはリチウム7に対する割合が12パーセントにも達する量でした。これほど多量のリチウム6が存在するのはなぜでしょう。そのもっとも簡単で納得のできる説明が、HD82943がリチウム6を含む惑星を呑み込んだというものです。

 これまでに発見された系外惑星の状況から見ますと、惑星形成以後の進化の過程でその軌道をかなり大きく変えたことがわかります。HD82943の2つの惑星は、その離心率がそれぞれ0.54と0.41で、かなり長く伸びた楕円軌道をたどっています。もしこの離心率がさらに大きく変化したとすると、もっとも星に近いところで軌道は星の半径より小さくなり、惑星は中心星に衝突、吸収される結果になると考えられるのです。

 いま想定されているシナリオは、こうした惑星の衝突、吸収によってHD82943の表面にリチウム6が補なわれた結果、今回観測された量に達したというものです。もし木星型惑星なら、木星2個分を呑み込む必要がありますが、リチウム6の多い地球型惑星なら、地球3個分でよいと計算されます。ここから、呑み込んだのは地球型惑星の確率が高く、HD82943は、かつては地球型惑星をもっていたと推論されたのです。

参照

2001年5月17日 国立天文台。広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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