【転載】国立天文台・天文ニュース(424)

赤方偏移観測から求めた宇宙の平均密度


 赤方偏移観測から,銀河分布の地図を描く作業が進められています。その副産物として、宇宙の質量の平均密度が計算されました。その値は Ω=0.3 程度で、宇宙膨張を止めるのに必要な Ω=1 に比べてかなり小さいものでした。

 ハッブルの法則で、銀河の後退速度はその距離に比例します。したがって、たくさんの銀河の後退速度を測定すれば、それは距離に換算され、銀河分布の地図を描くことができます。こうしてこれまでに作られた地図から、銀河分布は一様ではなく、そこに巨大なボイド(空洞)があったり、延々と銀河がつらなったウォール(壁)の存在することなどが発見されています。ハクラ(Huchra,J.)たちが描いたこの銀河地図をご覧になった方もいることでしょう。しかし、この種の観測の問題点は、後退速度を測るための銀河スペクトル撮影に時間がかかり、広い範囲の地図をつくるのが困難なことでした。

 エジンバラ大学のピーコック(Peacock,J.A.)たちのイギリス、オーストラリア共同チームは、オーストラリアのサイデング・スプリング天文台にある口径3.9メートルのアングロ・オーストラリアン望遠鏡に高感度の特殊装置を装着して、「2度視野銀河赤方偏移観測(two-degree-field galaxy redshift survey;2dFGRS)」と呼ばれる大規模な観測を1998年に開始しました。この装置は、2度の視野の中で同時に400個の銀河のスペクトル観測することが可能で、2001年末までに、銀河両極周辺で、19.45等までの明るさの銀河25万個を観測する計画です。そのうち14万個余りを観測した中間結果が最近発表されました。報告されたその地図には、厚さ4度の薄片として、約30億光年までの距離の銀河分布が描かれ、そこにはボイドやウォールの構造が以前よりさらにはっきり示されています。これは、過去の度の研究よりもはるかに大きい体積をカバーした地図です。

 ところで、銀河の後退速度はハッブルの法則と厳密に一致するわけではありません。仮に球状の銀河団があるとしましょう。この中では、中心に向けて重力が作用しますから、視線方向の速度を考えるとき、向う側の銀河は減速し、こちら側の銀河は加速しています。このような銀河団を、単に赤方偏移だけをもとに地図にプロットすれば、この銀河団は視線方向に圧縮され、より扁平になって描かれるはずです。ピーコックたちは、このように銀河団が扁平になる程度から、宇宙の平均密度が推定できることに気付いたのです。この手順に基づいて求めた平均密度が、上記のように、およそ Ω=0.3 になったのです。

参照

2001年3月15日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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