【転載】国立天文台・天文ニュース(398)

最遠の銀河の発表は誤り


ニューヨーク州立大学のチェン(Chen,H.-W.)たちは、昨年、赤方偏移 z=6.68に達する銀河の発見を報告し、これは知られている最遠の銀河と 考えられました。しかし、その後の観測によると、この赤方偏移の数値 は誤りらしく、最遠の銀河ではなかったようです。

 チェンたちは、ハッブル宇宙望遠鏡による1997年12月の観測で、「お おぐま座」の北端に、赤方偏移z=6.68に達する銀河を検出したことを 1999年4月に発表しました。赤方偏移zというのは、ドップラー効果によ り光の本来の波長が(1+z)倍に伸びて観測される状態であることを意味し ます。つまり、zが大きいほど光源天体の遠ざかる速度が大きく、その天 体が遠方にあることを示します。もし、z=6.68の報告が正しいとすると、 この銀河は光速の96.7パーセントの速さで遠ざかっていることに対応し、 ざっと130億光年もの遠方にあることになります。この遠い銀河は、 STIS123627+621755と呼ばれます。STISは観測装置のSpace Telescope Imaging Spectrographの頭文字で、続く数字はその天体の赤経、赤緯を 表しています。

 これに対し、ジェット推進研究所のスターン(Stern,D.)たちは、自分 たちの観測に基づき、この赤方偏移が誤りであると述べています。1998 年から2000年にかけて、スターンたちは、口径10メートルのケック望遠 鏡を使って、STIS123627+621755の観測を何度も試みました。その結果、 この天体は、Rバンド(720ナノメートル付近)の波長ではかなり明るいの に、Jバンド(1200ナノメートル付近)ではまったく観測できないことが確 認されました。これは、チェンたちが発表していたエネルギー分布と合 わず、z>6の銀河の特性とも矛盾します。ここからスターンたちは、この 銀河の赤方偏移z>6は誤りであると結論したのです。それでは、これはど んな天体でしょうか。確実なことはわかりませんが、スターンたちは、 z=1.5程度で、酸素の禁制線[OII]を放射している暗い銀河なら、一応観 測結果に合うのではないかと述べています。

 チエンたちも、この結論を受け入れ、この天体の赤方偏移は未確定の ままであると解釈を変更しました。そのスペクトルのエネルギー分布は 特異で、銀河にしても星にしても解釈が難しいと述べています。いずれ にしても、この最遠の銀河発見のニュースは、残念ながら幻に終わった ようです。

参照

2000年12月7日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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