【転載】国立天文台・天文ニュース(371)

火星はまだ活力が残っている惑星


 地質学的に見て、火星は死んではいない。まだ活動を続けている惑星である。そういう見方が広まっています。

 1964年から1971年にかけて、初期の火星探査機マリナー4号から9号が撮影した火星の写真は、植物も運河もない不毛の大地を写し出しました。その後1976年に着陸したバイキング1号、2号も、実験では生物の痕跡を発見できず、写真は砂礫の続く平原を写し出すばかりでした。それ以来、火星は地質学的にほとんど死んだ惑星と考えられるようになりました。火星表面に水があったのは10億年も20億年も前のことであり、水はあっても現在は地下深くに閉じ込められていると推測されたのです。

 しかし、現在、その考え方は変わりつつあります。若さに満ち溢れているとはいいませんが、火星は少なくとも中程度の活力はあり、比較的最近まで、地表近くを水が流れる状態であった。その考えが広がりつつあります。これは、火星起源のいくつかの隕石の年代決定と、火星を周回して観測をつづけている探査機、マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)の高分解画像の解析による結果です。

 火星起源とされているシャーゴッタイトと呼ばれる隕石は、年代決定によって1億6500万年という新しいものであることかわかりました。また、やはり火星起源でナクライトといわれる種類の比較的新しい隕石中には、海水から沈殿したと見られる鉱物が発見されました。これはそのとき水があったことを示す証拠です。これらの岩石は火星に落下した別の隕石の衝撃によって太陽系に投げ出されたものであり、その当時火星の表面近くに存在していたに違いありません。

 火星表面の地形の年代は、その場所のクレーターを数えることで決められます。あまり確実ではないと考えられていた方法ですが、直径11メートルの小さいクレーターまで判別できるMGSの画像でその精度はかなり高められ、形成後1億年以下と推定される地表がいくつか発見されています。

エリシウム平原の溶岩流の年令は1000万年以下とさえいわれています。これは、マグマがその時期まで活動していたことを示すもので、その熱によって地下の氷が溶け、水となって流れた可能性を否定することはできません。

 こうした事実から推論すると、火星内部の熱は最近までマグマを動かしていた可能性が高く、火星史最後の15パーセントの期間内に、地殻内を水が流れたことを示しています。あるいは現在でも、表面近くに水が存在するのかもしれません。

参照

2000年8月17日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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