【転載】国立天文台・天文ニュース(342)

コワール・ムルコス彗星の再発見


 リンカーン研究所のリニアチームによって今年3月9日以降に観測された18.9等の天体が、行方不明であったコワール・ムルコス彗星であることがわかりました。

 この天体は3月9日に発見され、その後13日、4月4日、8日の観測と合わせて、離心率が大きい彗星状の軌道であるが確定し、彗星としてP/2000 ET90 の認識符号が与えられました。さらに、リニアチームによって2月7日、カタリナ・スカイサーベイによって3月1日、ロネオスチームによって4月2日に観測されていたこともわかり、それらのデータに基づいて軌道計算が進められました。この時点で、小惑星センターのマースデン(Marsden,B.G.)、カタリナ・スカイサーベイのハージェンロザー(Hergenrother,C.W.)によって過去に観測された彗星である可能性が示唆され、検討の結果、この彗星は行方不明であったコワール・ムルコス彗星(D/1984 H1 Kowal-Mrkos)であることが確認されました。

 コワール・ムルコス彗星は、カリフォルニア工科大学のコワール(Kowal,C.T.)が、1984年4月にパロマー山の口径1.2メートル、シュミット望遠鏡によって、「おとめ座」のスピカの近くで、15等の明るさで発見した彗星です。コワールとは独立に、当時チェコスロバキアのムルコス(Murkos,A.)も5月2日に観測していたことがわかり、発見者二人の名がつけられました。4月23日から5月19日までの1ヶ月足らずの期間の観測から周期7.32年の周期彗星としての軌道が求められ、次回の近日点通過が1991年7月と計算されていました。しかしその回帰は観測されず、彗星は行方不明とみなされることになったのです。1995年の彗星カタログからは、亡失を意味するDの記号のついた、D/1984 H1 の認識符号で扱われていました。

 今回の再発見によって、この彗星の軌道決定精度は大きく向上しました。1989年3月に木星に0.16天文単位まで接近して多少軌道が変化し、8.95年と周期がやや延びています。

 このように周期が計算されながら行方不明になっている彗星は他にもたくさんあります。たとえば、シューメーカー第2彗星(D/1984 W1 Shoemaker2,周期7.84年)、羽根田・カンポス彗星(D/1978 R1 Haneda-Campos,周期5.97年)、トリトン彗星(D/1978 C2 Tritton,周期6.35年)、スキッフ・香西彗星(D/1977 C1 Skiff-Kosai,周期7.54年)などが挙げられます。現在の捜索システムは性能が高いですから、これらの彗星もいつかは再発見されるかもしれません。

参照

  • IAUC 7403(Apr.15,2000).
  • IAUC 3988(Sept.12, 1984).
  • 2000年4月27日 国立天文台・広報普及室


    転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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