【転載】国立天文台・天文ニュース(317)

天王星・海王星の生い立ち


 現在の理論では、木星から海王星までの巨大ガス惑星は、まず小天体がたくさん集まってその核を作り、それがさらに原始太陽系のちりやガスを集めることで形成されたと考えられています。しかし、いま天王星、海王星が存在する太陽から遠くはなれた場所は、ちりやガスが希薄すぎて、どんなモデルを考えても、45億年の太陽系年令以内に天王星、海王星をうまく作り上げることができません。この問題が惑星科学者を悩ませていました。

 これに対し、カナダ、クイーンズ大学のトムズ(Thommes,E.W.)らが、新しい考え方を提案しています。トムズらによると、天王星、海王星はずっと太陽に近い場所で形成され、後から現在の遠く離れた場所に投げ出されたというのです。

 この状況を再現するため、トムズらは、太陽から5-10天文単位のところに4個の核を置き、さらに地球質量の100-200倍に達する物質を原始太陽系円盤として適当な配置で分布させ、それらの運動を500万年にわたって数値積分で追跡するシミュレーションを何回もおこなったのです。その結果、つぎのような成長の大筋が得られました。

 惑星の核は円盤の物質に衝突してそれらを捕獲し、しだいに大きくなります。たまたま多少成長が早く、大きくなった核は、その重力でますます多くの物質を集め、より早く、より大きく成長します。まず木星が、続いて土星がこうして大きくなったため、重力的に優勢なこの2惑星が、成長が遅れた天王星、海王星をその重力で遠くへ投げ出します。投げ出された天王星、海王星の当初の軌道は、長く伸び、傾いたものですが、その後、円盤物質との力学的摩擦で、しだいに円く、傾斜の小さい、現在の軌道に落ち着くきます。こうして現在の惑星配置になったというのがトムズらの説明です。さまざまな初期条件で計算したシミュレーションの半分程度は、現在の惑星配置に似た形になったそうです。ほとんどのシミュレーションで、40天文単位以上の領域に、最終的に、現在のカイパーベルト天体によく似た物質分布が生じたことは特筆する価値があるでしょう。

 この計算はまだかなり粗っぽいもので、これだけの結果から太陽系の形成過程を結論付けることはできません。しかし、ひとつの方向を示したものでありましょう。モデルを精密にすればより正確な結果が得られますが、それだけアルゴリズムは複雑になり、計算に時間がかかるようになります。したがって、この種の計算はコンピュータの能力に大きく依存するのです。

参照

2000年1月6日 国立天文台・広報普及室


転載: ふくはら なおひと(福原直人) [自己紹介]

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