過去35年にもわたる間、謎に包まれていたガンマ(γ)線バーストの起源が明らかになってきました。2005年10月6日発行のイギリスの科学雑誌ネイチャーでは、ガンマ線バーストの一種、ショート・ガンマ線バーストについての研究結果が報告されています。
ガンマ線バーストは1960年代にスパイ衛星によって発見された現象です。その後しばらくの間、どんな天体がガンマ線バーストを起こしているのか、どのくらい離れた場所で起こっている現象なのか、わかりませんでした。距離が測定されたのは1997年のことです。イタリアとオランダが打ち上げた人工衛星が観測したガンマ線バーストのアフターグロー(残光)から距離が見積もられました。距離が測定できると、放射されたエネルギー量を概算することができます。するとそのエネルギーが驚異的に大きな量であることがわかりました。
それから、多くの観測が行われ、ガンマ線バーストはバーストが2秒以上続く場合とそれ以下の場合、ふたつの種類に分類されました。前者がロング・ガンマ線バースト、後者がショート・ガンマ線バーストです。最近の研究から、ロング・ガンマ線バーストは、高速回転している大質量星がブラックホールになるときの極超新星爆発によるものとわかりました。大質量星が死を迎えたときの断末魔の叫びだったわけです。
一方のショート・ガンマ線バーストは、平均的なバーストの時間が0.3秒という非常に短時間であり、捕らえることさえほとんど不可能だと考えられてきました。しかし、今年5月と7月にふたつのショート・ガンマ線バースト、GRB050509B と GRB050709 が見つかり、研究が大きく進歩しました。これらの二つのショート・ガンマ線バーストまでの距離は、それぞれ26億光年と20億光年と推定されます。そして、GRB050509B は近傍にある比較的古い銀河である楕円銀河の外側で見つかりました。その銀河には大質量星が爆発した兆候はなく、観測されたガンマ線バーストのエネルギーはロング・ガンマ線バーストの1パーセントにも満たないエネルギー量でした。一方の GBR080709 は星形成している矮小銀河で起こったようです。他にも見つかっている三つのショート・ガンマ線バーストがありますが、どれも楕円銀河で起こったバーストと報告されています。つまり、ショート・ガンマ線バーストは古い星の集団である楕円銀河で起こるという傾向があります。この結果は、ふたつの中性子星もしくは中性子星とブラックホールがお互いの周りをまわりつつ、引きつけ合ってついには合体し、ブラックホールになるときにガンマ線バーストを起こすというモデルの予測と一致していました。
ショート・ガンマ線バーストの起源には、もう一つの仮説があります。ソフトガンマ線リピーターと呼ばれる、非常に磁場が強い中性子星からのフレアーであるという仮説です。この場合、モデルから予測されるガンマ線バーストのエネルギー量は、GRB050509 と GRB050709 の場合よりもかなり大きくなります。したがって、少なくとも GRB050509 と GRB050709 のふたつのショート・ガンマ線バーストについては、ソフトガンマ線リピーターが起源ではないと言えます。
ロング・ガンマ線バーストでもそうであったように、アフターグローを観測できるようになったことで、ショート・ガンマ線バーストについての研究は「詳細」、かつ、「実証的な」研究の段階に達したといえます。これから明らかになるであろう謎がいくつかあります。第一に、どうして以前検出されたショート・ガンマ線バーストの場所には今回のような楕円銀河が見えなかったのか、という謎です。これは、もしかするとショート・ガンマ線バーストに別の起源があることを示しているのかもしれません。または、銀河が暗すぎて見えなかったのかもしれません。二番目にはアフターグローの謎です。GRB050709 では X線のアフターグローがガンマ線バーストから二週間後に見つかりました。それほど時間がたってから X線の活動が起こるということは、中心から長い間エネルギーが出ていることになるからです。
中性子星同士や中性子星とブラックホールの衝突合体現象が実際に起こっているらしいという結果が出たことで、重力波を検出できる可能性も高まりました。重力波は、時空のゆがみが伝わる現象でアインシュタインによって予言されましたが、まだ直接検出できていません。中性子星やブラックホールの衝突合体によって重力波が生まれます。もし、GRB050509B や GRB050709のような現象がもっと近くで起これば、重力波を検出することができると期待されます。
2005年10月25日 国立天文台・広報室
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